※写真はイメージです (GettyImages)
※写真はイメージです (GettyImages)

 定年後にやりたいことはひとそれぞれだが、「お坊さん」を選択した人たちもいる。銀行員から転身した築地本願寺の僧侶・正岡利之さん(64)もその一人だ。僧侶になったきっかけ、現在の活動内容とは──。

【写真】銀行員から転身した築地本願寺の僧侶・正岡利之さんはこちら

*  *  *

 元々、道を極める生き方が性に合ってるんです。新卒で三菱UFJ信託銀行に入行して、金融のプロとして資産運用業務などを担当してきました。

 57歳のとき、千葉の伊能忠敬記念館に行ったのは転機かもしれません。江戸時代、豪商だった彼は隠居後に勉強に励み、55歳から17年かけて全国測量を成し遂げた。「自分は定年後に何をやりたいんだろう?」と真剣に考えるようになりました。

 その2年後、中学高校の先輩で、当時築地本願寺の宗務長だった安永雄玄さん(現西本願寺執行長)に、「仏教の勉強をしてみないか?」と誘われたんです。仏教には高校時代から興味があり、よく本を読んでいました。浄土真宗本願寺派の専門学校の中央仏教学院(京都市)の通信講座を受けてみたら、「これだ!」と。奥が深くて、たとえ体が動かなくなっても学び続けたいと思いました。

 おもしろくて勉強するうち、ごく自然な流れで、僧侶になるための10日間の研修「得度習礼(とくどしゅらい)」を経て、僧籍をいただきました。3年前のことです。このときは剃髪が必要なので、しばらくはかつらを被って出社しました。仏教の学びは厳しくてもつらくはないのですが、こればっかりは苦労しました(笑)。

 僧侶の活動に専念するため、今年3月に会社を辞めました。前職の知識を生かし、築地本願寺が行っている無料の終活相談に携わっています。死後事務委任や相続、お墓のことなど何でも話を聞き、情報を差し上げます。東京都港区の光明寺でも同じ活動を行っています。

 お寺は業者ではないので、気負わずに相談に来られる方は多いですね。不安が解消した方は、心からの感謝を伝えてくださいます。その「ありがとう」は、ビジネス上のものとはどこかちがう気がして。利害を抜きに人と交われることは喜びです。

著者プロフィールを見る
大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

大谷百合絵の記事一覧はこちら
次のページ