内澤旬子(うちざわ・じゅんこ)/ 1967年、神奈川県生まれ。文筆家、イラストレーター。2010年の『身体のいいなり』で講談社エッセイ賞受賞。その他の著書に『世界屠畜紀行』『ストーカーとの七〇〇日戦争』『内澤旬子の島へんろの記』など。(撮影/内澤旬子)
内澤旬子(うちざわ・じゅんこ)/ 1967年、神奈川県生まれ。文筆家、イラストレーター。2010年の『身体のいいなり』で講談社エッセイ賞受賞。その他の著書に『世界屠畜紀行』『ストーカーとの七〇〇日戦争』『内澤旬子の島へんろの記』など。(撮影/内澤旬子)

『カヨと私』(本の雑誌社 2200円・税込み)は小豆島でヤギと暮らす内澤旬子さんのエッセイだ。写真のカヨを牧場から譲り受けたのは8年前。まだ生後数カ月の子ヤギだった。

「真っ白で本当にきれいでした。かわいい妹みたいに飼えたらいいなと思っていたんですけど、今では貫禄が出て女王様みたいになっています」

 最初は頭をなでさせてもくれなかったカヨが自分から寄り添ってくるようになり、初めての出産を一緒に乗り切って、カヨと内澤さんは心を通わせていく。

 カヨは結局4回出産し、ヤギは7頭まで増えた。暴れん坊の茶太郎、そっと近づいてきてペロペロなめる優しい銀角など、個性豊かなメンバーのヤギ社会がまた面白い。

 驚くのは内澤さんがヤギと密な関係を築いていることだ。とくにカヨは「そろそろヤギ舎に入りましょう」と言うと「ウェー」と答えることもあるし、「みんなを呼んできて」と頼むと他のヤギを連れてくる。

「楽しいですよ。でも、言うことを聞かないことも多くて、伸びたヒヅメを切るときも一生懸命お願いして、『しょうがないな、切らせてやるか』という感じなんです」

 ヤギは気軽に飼える動物と思っていたが、そう甘くはないようだ。まず草の選り好みが激しい。おいしい草しか食べないから、内澤さんは耕作放棄地で草を刈り、農家からオリーブやブドウの枝をもらって車で運ぶ。頭には角があり、頭突きしてくるので生傷が絶えない。おまけに発情期の雌は大声で鳴く。

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