※写真はイメージです
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 マンションの未来を考えたとき、いずれたどり着くのが「建て替え」や「解体」といった処分の問題だ。だが集合住宅であるマンションには、合意形成という高い壁が立ちはだかり、思うように進まない現実がある。

【図表】2004年~2022年までのマンション建て替え実施状況

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「私たちの世代は、建て替えも視野に入れていかないといけないんです」

 都内の某マンションでは、大規模修繕工事についての意見がまとまらず、理事会では重い空気が流れていた。築40年弱と古い物件だが、ここ15年ほどで中古の部屋を購入した若い世代の住人も入ってきた。

 7年前に越してきた40代夫婦と子どもが暮らす部屋は、入居前のリノベーションでずいぶん垢抜け、たびたび雑誌でも紹介される。その住人が管理組合の理事に就任してから、高齢の住人にとっては頭の痛い話が積極的に議論されるようになった。

 目下の議題は、3度目の大規模修繕工事についてだ。築年数とともに建物は老朽化し、設備の劣化も目立ってきている。だが区分所有者である住人の6割が、60代以上の高齢者。2度目の大規模修繕工事を15年前に行い、「あとはそのつど気になるところを必要最低限、修繕していけばいい」と考える住人が多い。

 ところが若い世代が入居するにつれ、雲行きが変わっていった。「良い場所にある物件なんだから、資産価値を維持できるようにしっかり手を入れていかないと」と40代の理事が畳み掛けると、若い世代の住人は「そのとおり」とうなずく。「これからのマンションは“管理を買う時代”って言われています」と口をそろえる。

 高齢の住人も、工事をしたほうが良いことはわかってはいるが、積立金の増額や一時金の徴収といった話になると、極力避けたい。年金暮らしに入り、限られた老後資金をマンションの工事費などにつぎ込みたくはないのが本音だ。「資産価値を維持したい」現役世代と、「住める状態であればそれでいい」高齢世代との間にある溝は深い。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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