どらやき237円(税込み。以下同)。うさぎ万頭194円の絵は1個ずつ羊羹で描いているので、顔に若干の違いが
どらやき237円(税込み。以下同)。うさぎ万頭194円の絵は1個ずつ羊羹で描いているので、顔に若干の違いが

 東京西部を一直線に走る中央線に1922年、高円寺・阿佐ケ谷・西荻窪の3駅が誕生した。それから100年。駅周辺には“中央線文化”と呼ばれる独特の雰囲気が醸成されてきた。その魅力を探る三駅物語第2回。詩人・小説家のねじめ正一さんが阿佐ケ谷を語る。

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■井伏鱒二ら“阿佐ケ谷文士”のなごりが残る

 高円寺に生まれ育ち、19歳で阿佐ケ谷に引っ越したねじめ正一さん。隣り合うふたつの街はまったく違うと語る。

「高円寺は電話ボックスに何人も入ったような状態。阿佐ケ谷は一人でゆっくりと電話している感じかな」

 その真意を尋ねると、

「高円寺はカオスで、皆で一緒にグチャグチャになりながら向かっていく力がある。それに対して阿佐ケ谷は落ち着いていて、一人ひとりの顔がよく見えるんですね。井伏鱒二ら文化人が住んでいた街の匂いが残っています」

 かつてこのあたりには井伏、川端康成、横光利一らが住み、文士村が形成された。そのなごりがあるというのだ。

「店の経営者も、採算より良いものを作るんだというプライドを持つ人が多いですね」

■自慢のあんこは熟練職人が手作業で練る

上野にあるどらやきの名店「うさぎや」の娘が杉並に嫁いだ。しかし夫は戦争で職を失い、娘は実家にも援助を頼み西荻窪に「うさぎや」を開業。1950年のことだ。7年後に阿佐ケ谷に移転し今に至る。人気の秘訣は、商品ごとに異なるあんこ。「和菓子の基本ですから。うちではあんこ作りのほぼすべての作業を人力でやっており、職人の勘が大切です」と2代目店主の瀬山妙子さん。「職人は宝です」と語る店主のもと、今日も伝統の味が作られる。

老若男女が次々に訪れる。店頭のショーケースを見て店員と会話を楽しみながら注文する
老若男女が次々に訪れる。店頭のショーケースを見て店員と会話を楽しみながら注文する

うさぎや
住所:東京都杉並区阿佐谷北1‐3‐7/営業時間9:00~19:00/定休日:土、第1・2・3金

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