赤ちゃん(画面右下)が見つめた画面左のキャラクターに、石が降ってくる様子(鹿子木研究室提供)
赤ちゃん(画面右下)が見つめた画面左のキャラクターに、石が降ってくる様子(鹿子木研究室提供)

 赤ちゃんが目を見開いてテレビ画面を見つめる。すると、その視線の先にある、両目がくりっとした四角いキャラクターに向けて、岩が上から降ってくる。まるでゲームをしているような光景だが、これはれっきとした研究の一環だ。

 大阪大学大学院人間科学研究科の鹿子木(かなこぎ)康弘准教授らの研究チームは、言語を獲得する前の生後8カ月の赤ちゃんが、悪者を懲らしめるような正義的行動(第三者罰)をすることを突き止めた。その成果は世界的に評価され、今年6月10日に論文が英科学誌ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビアに掲載された。

 鹿子木准教授によると、生まれて間もない赤ん坊が第三者の行動の善悪を評価することは、これまでに明らかになっていたが、それを実際に行動に移すことは証明されていなかった。

 自分に関係のない者を罰しようとする「第三者罰」は人間だけに見られるもので、人間に近いとされるチンパンジーでも、自分に危害を加えてきたものは罰しようとするが、第三者罰は行わないとされている。

 現代の社会で第三者罰が機能している代表例が刑務所で、人間は悪者を集団から排除することによって社会を大きくしてきた側面もあるという。

 今回の研究の意義を鹿子木准教授はこう話す。

「赤ちゃんは人生の経験が少なく、今回の道徳的行動のような色々な能力を証明することで、人間の性質を明らかにすることができると考えられています。それは人間とは何かという問いを追求することでもあり、それにより人間理解が深まって、我々大人の人間社会もより豊かになるのではないでしょうか」

 ところで、今回の研究成果に貢献したのが総勢120人の「赤ちゃん研究員」たちだ。

 鹿子木研究室では、研究に協力してくれる0歳から2歳までの赤ちゃんとその保護者をホームページ上で随時、募集している。実験は大阪大学吹田キャンパス内の調査室で行われ、10分程度の調査時間を含め、30分から1時間程度で気軽に参加できる。3千円の謝礼も払われるという。

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