ことし6月に没後20年を迎えたナンシー関さん。舌鋒鋭いコラムが人気を博した彼女は、本誌連載「小耳にはさもう」でも健在だった。吉田拓郎さんが出演したトーク番組について語った、当時の連載(172回 1996年7月26日号)を再掲する。※敬称略。名前、肩書などは、当時のまま掲載しています

【画像】郷ひろみさんについて語った1995年9月8日号はこちら

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「僕も年さえ若ければSMAPに入りたい」

※吉田拓郎発言 七月十日 フジテレビ「TK MUSIC CLAMP」にて SMAP中居がホストを務めるトークコーナーにゲストとして出演。自分もデビューのころはルックスだけで売っていたと、若いころを振り返る

 私の知り合いには、吉田拓郎ファンというのが何人かいるが、きっと忸怩(じくじ)たる思いなんだろうなあと思いながら見た。完全に吉田拓郎が中居に対して媚びている。媚びているという表現がキツすぎるなら、迎合していると言い換えてもいいけど、とにかく吉田拓郎は「来た球を迎え打つ」ではなく打ちにいってしまっている。泳いじゃっているのだ。何でも野球にたとえるとオヤジのようであるが。

「SMAPに入りたい」は半分冗談としても、その前後の「五十歳になった今だからこそ言える“若さ”“自信”“フォーク”についての一考」みたいな話を先輩が後輩に説教するふうでもなく、大物が若手に授けているふうでもなく、非常に滑らかに言葉多く語る姿は、「中居に聞いてもらっている」という表現が最も合っているように思えた。

 まあ私はもともと吉田拓郎に対してあまり思い入れもないので、吉田拓郎がこのときハマってしまった「吉田拓郎的にちょっとマズい状況」よりも、むしろ「トーク番組」そのものの構造が生むいろんな状況に考え及ばせたのである。

 トーク番組が多いのはカネと手間がかからないから、というのは素人でも知っているからくりである。深夜帯にもやたらとトークものが多いところを見ると、カネがかかっていないことだけは本当だろうと思える。

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