独自の感覚でテレビが作り出す空気感を切り取ったナンシー関さん。歯に衣着せぬ言葉を発信し続けた彼女は、ことし没後20年を迎えた。本誌連載「小耳にはさもう」では、郷ひろみさんについて語ったことも。当時(131回 1995年9月8日号)の連載を再掲する。※敬称略。名前、肩書などは、当時のまま掲載しています

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「浮気をしたら、すべてのものをあきらめてとは言われてます」

※郷ひろみ発言 八月二十日 「おしゃれカンケイ」にて 浮気をしたら離婚されるかどうかという質問に対して

 郷ひろみはおもしろいなあ。もちろん郷ひろみ本人の言動がおもしろおかしいわけではなく、郷ひろみという存在のしかたがたまらなくおもしろいのである。

 私が小学校の四年か五年のときに郷ひろみはデビューした。デビューした途端、私はファンになった。小学生だからマジだ。全肯定のファンである。いくら親から「歌が下手くそ」と言われようが、クラスの男子が「男女キモチワリィ」とけなそうが、関係ない。「歌が下手なところも好き」という論理もあるワケだが、当時はあくまでも「下手じゃないもん」というスタンスであった。子供だった私の「全肯定」とはそうだった。

 しばらくすると、アイドルを全肯定すること自体ができなくなってきて、それほど熱心じゃなくなった。そして郷ひろみも、路線変更をしはじめる。まず嫌だったのは「勉強」といってはよくアメリカへ行ったこと。アーチストという言葉が使われはじめたころでもあったが、私は郷ひろみにアーチストなんかになってほしいとは思っていなかったのに、どうやら本人はアーチストになりたいらしいということを子供ながらに察知し、そのズレが寂しくもあった。あと決定的に嫌だったのは、フリオ・イグレシアスのカバー曲を歌ったことだ。あんな辛気くさい歌ではなくて、私は「花とみつばち」とか「誘われてフラメンコ」みたいな歌を歌っててほしかったのに。

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