松尾貴史さん
松尾貴史さん

 俳優やコラムニストなど、複数の分野を並行するマルチタレントの走りとして、活躍し続けている松尾貴史さん。大切にしている仕事観や年齢に対する考え方とは──。

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 松尾さんは、新しい作品に取り組むときも、映画や舞台を見るときも、事前にあれこれ調べたりはしないという。ジャンルに関わらず、アンテナに引っ掛かったものがあれば足を運ぶし、舞台への取り組みも、稽古場で生まれるものを大事にしている。

「基礎知識なしで、どれぐらい気づけるかなっていうのが、作品に向かうときの、僕のいちばんの楽しみなんです。最近の娯楽作品だと、事前のマーケティングリサーチがしっかりしているせいか、『なんじゃそりゃ』ってものがなかなかないですよね。特に、テレビなんかに顕著ですけど、前回数字が良かったからこの題材を使おう、安定したファンがいるからこのキャストを、っていうケースが増えていますよね。でも、ドラマでも、『半沢直樹』があそこまで化けたのは、マーケティングリサーチとは関係ないところでキャスティングされた、舞台上で腕っぷしの強い人たちが、メインのところにいたことが大きかったと僕は思うんです。この人見たことある、不思議な役者だなってことが、ものすごく新鮮だったんじゃないかと。ドラマに比べたら、舞台は、まだ屈折して世の中を見ているようなものの作り方ができますから。それでも、もう少し土の匂いがするっていうか……ファンキーな作品が増えてもいいんじゃないのかなという気はしますね」

 下調べをすると、本番がおもしろくなくなるという感覚は、ラジオでゲストを迎えるときにも大事にしている。ゲストのことはできるだけ調べないし、その日のテーマも、当日に台本を開いて、初めて知るようにしている。

「そうしたほうが、新鮮だし楽しいんです。だいたい、専門的なことを僕が理解してしまった状態だと、リスナーを置いていっちゃうことが多いんですよ。……と言いつつ、そういう理屈をつけて本当はサボってるだけなんですけど」

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