松岡宗嗣さん/ 一般社団法人fair代表理事
松岡宗嗣さん/ 一般社団法人fair代表理事

 安倍晋三元首相の政治家としての評価を識者はどう考えているのか。今回は一般社団法人fair代表理事・松岡宗嗣さんの意見。

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 第2次安倍政権が目玉として打ち出した政策の一つに「女性活躍」があります。これは、あくまで「経済政策」だという点が巧妙だと思います。

 確かに、一定規模の企業の雇用主は女性の採用や管理職の登用に関する数値目標を設定しなくてはならないなど、男女共同参画が進んだ面はあったかもしれません。けれど、選択的夫婦別姓の議論は進まず、女性の割合が高い非正規雇用への対応には関心がない。女性議員の割合は相変わらず低いまま。2022年のジェンダーギャップ指数は昨年同様、主要先進国の中で最下位でした。

 安倍氏はスローガンとして女性活躍を掲げながらも、女性の人権には向き合わず、根本的にジェンダー平等を達成する気はなかった。00年代、性差にとらわれないという意味の「ジェンダーフリー」という言葉が曲解され、ジェンダー平等に対するバックラッシュ(反動)が起きました。05年に立ち上げられた「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」の座長を務めたのが安倍氏でした。その姿勢は性的マイノリティーに関する政策にも相通じる部分があります。

東京レインボープライド2022/ パレードには約2千人が参加した=2022年4月24、東京・渋谷(撮影:川村直子)
東京レインボープライド2022/ パレードには約2千人が参加した=2022年4月24、東京・渋谷(撮影:川村直子)

 15年、超党派の国会議員でつくる「LGBT議連」が発足しました。自民党の一部議員は独自にLGBT特命委員会を設立。差別を禁止したくないがために「LGBT理解増進法案」を提案します。21年には、与野党でなんとか合意し国会提出の一歩手前まで進みながら、直前で断念に追い込まれました。この時、党の執行部に対して圧力をかけたのが安倍氏だったと報じられています。

 今年6月には、大多数の自民党議員が参加する「神道政治連盟国会議員懇談会」で、同性愛は「後天的な精神の障害、または依存症」などと差別的な考えを記した冊子が配られました。懇談会の会長を務めていたのが、やはり安倍氏だったのです。

 安倍氏の存在は岸田政権にも大きな影響を残しました。性的マイノリティーの法整備については依然として進展がありません。本来なら国が率先して「差別はダメ」という前提を示していく必要があるのに、むしろ国が差別を野放しにしていると言わざるを得ない状況です。

(構成 本誌・松岡瑛理)

週刊朝日  2022年8月12日号