帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「記憶力の低下について」。

*  *  *

【過去】ポイント

(1)私は昔から、記憶力がよく、暗記ものが得意だった

(2)80歳を過ぎて、すっかり記憶力が低下してしまった

(3)でも記憶力の低下は、昔より未来が大事だということ

 私は子どもの頃から、記憶力がいい方でした。学校でも、いわゆる暗記ものが得意でしたし、医学部に進んでからも、記憶力のよさに助けられました。医学というのは、けっこう覚えなければいけないことが多いのです。身体の部位の名称は細かく分かれていますし、薬だって、たくさんあります。それを覚えないと、前に進めません。

 ところが、80歳を過ぎて、すっかり記憶力が低下しましたね。漢詩を思い出したり、養生訓や言志四録の一節を誦じたりすることはできるのです。でも、人名がダメなんです。講演の途中で、名前を出そうと思って、立ち往生してしまうことが増えました。先日も「ええと、名前が出てこないのですが、有名な落語家さんと対談したときに……」となりました。立川談志さんの名前が出てこなかったんです。

「好きな女優さんは?」と聞かれて、すぐに思い浮かぶ顔があるのですが、名前が出てきません。彼女は鼻の孔、医学用語でいうと外鼻孔の形がセクシーなのです。約60年前、東大分院の廊下で彼女とすれ違って、思わず会釈をしてしまったことがあります。そんなに好きな人なのに、誰だかわからないのです。

 しかし、振り返ってみると、人の名前や顔を覚えないというのは、今に始まったことではありません。私は昔から、診察した患者さんのことを忘れてしまうのです。

 講演に行って、降壇すると、大抵2~3人の方が近づいてきて、

「5年前にお世話になった○○です」

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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