ライター・永江朗さんの「ベスト・レコメンド」。今回は、『デマの影響力』(シナン・アラル著・夏目大訳、ダイヤモンド社 2420円・税込み)を取り上げる。
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ぼくたちは厄災から学ぶ。敗戦で戦争の愚かさを学び、原発事故では核利用の危うさを学んだ。そしてコロナ禍からはデジタル社会の明と暗を知った。
『デマの影響力』はSNSなどソーシャル・メディアの危険性と可能性についての本。著者のシナン・アラルはマサチューセッツ工科大学の教授だが、IT企業を興したり投資したりもしている。本書はさまざまな学術的調査と、ビジネスで経験したことが下敷きになっている。
副題にあるように、デマは真実よりも速く、広く、力強く伝わる。これはツイッターでフェイク・ニュースがどのように拡散したかについての大規模な調査の結果はっきりしたこと。
もっとも、ツイッターやフェイスブックは、デマを拡散し、人びとを操作するためにつくられたわけではない。人間の脳には凡庸なことより新奇なことに強く反応する性質があり、ソーシャル・メディアはこれを利用することで発達してきた。ぼくたちは凡庸な真実よりも目新しくて刺激的なウソのほうが好きなのだ。
だが、フェイク・ニュースは選挙を左右し、社会を分断したり戦争を引き起こしたりする。本書は米大統領選や2014年のロシアによるクリミア侵攻についても詳述している。現在のウクライナ戦争はその延長線上にある。ソーシャル・メディアは人間の本質をデフォルメしただけ、などと達観したようなことを言っている場合ではない。
ぼくたちはどう対処すべきか。スマホを捨て、ネットを遮断すればいいのか。それではソーシャル・メディアの有用性や利便性も捨ててしまうことになる。負の側面と特質をよく知ってネットとつきあおう。
※週刊朝日 2022年7月29日号