齋藤孝さん(右)と林真理子さん(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
齋藤孝さん(右)と林真理子さん(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

『声に出して読みたい日本語』で、日本語ブームの火付け役になった教育学者の齋藤孝さん。作家の林真理子さんとの対談では、教養のあり方、大学の授業での取り組みなどについて語ってくれました。

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齋藤:教養って、互いに「知ってるよね」で盛り上がると思うんですが、あるときから「別に知らなくてもいいや」って感じになりましたね。

林:齋藤先生みたいに教養がある方に会って恥をかいて、「ああ恥ずかしい。自分も勉強しよう」と思って、それを積み重ねながら身につけていくのが教養だと思うんですけど、いまの人は最初の「恥ずかしい」がないんですよね。

齋藤:その開き直ってる感じが寂しいですよね。

林:昔の旧制高校の学生さんたちの教養って、ドイツ語、英語はしゃべれるし、デカルトを読み、『万葉集』も読み、お芝居も見て、ピアノも弾いて、イタリア語の歌も歌うという、あれってすごいですよね。自分たちは選ばれた人だという思いなんでしょうか。

齋藤:エリート意識もあると思うんですが、未来の日本をつくっていくんだという気概があったと思うんです。旧制高校にいるあいだは文学、哲学、科学に没入する時間があった。沈潜期間というか、実社会に出る前にちゃんと潜っておいて、それが実社会に出て経営者になったときの精神的な強さにつながったと思うんです。

林:先生が東大に入られたころは、そういう教養主義みたいなものがまだ残ってたんですか。

齋藤:駒場寮が残っていて、「最近、何の本を読んでる?」というのが寮生と会ったときのあいさつでしたね。

林:ほおー、やっぱり東大生はすごいですね。

齋藤:「折口信夫(しのぶ)の何々だけどさ」って言われて、まず「信夫」を「のぶお」って読んじゃうと恥ずかしい(笑)。「それ何?」って聞くわけにもいかないので、適当に話を合わせておいて、すぐ買って、その日のうちに読むという。

林:自分はもの知らずだなと思う気持ちがないとダメですよね。

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