ライター・永江朗さんの「ベスト・レコメンド」。今回は、『本が語ること、語らせること』(青木海青子 夕書房、1870円・税込み)を取り上げる。

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 本は出版された瞬間、公共のものになる。著者(だけ)のものでもなく、買った人(だけ)のものでもなく、みんなのものに。まだ生まれていない未来の人のものでもある。青木海青子の『本が語ること、語らせること』を読んで、そのことを強く思った。

 著者は奈良県東吉野村にあるルチャ・リブロの司書。カーナビも役に立たない森の中にある私設図書館だ。

 本書の内容は人生相談+エッセイ。人生相談では、「コロナ禍でリアル会議、どうする?」とか「働かない夫となぜ暮らしているのか」とか「最近、SNSが苦痛です」といった相談に、著者と著者の夫でルチャ・リブロ・キュレーターの青木真兵が3冊の本を挙げて回答する。エッセイは森の中の日々のこと。

 たとえば「自分を語る言葉が見つからない」という相談に、著者は室生犀星の『われはうたえどもやぶれかぶれ』と村上慧『家をせおって歩いた』を、真兵は鴨長明『方丈記』を挙げつつ、「自分を語る」ということについて考える。

 図書館というと静粛を求められる場所というイメージがあるが、ルチャ・リブロは違うらしい。ぶらっと立ち寄った村の人や、わざわざ遠方から来た人が、著者たちと会話する。あいだに本が介在することで、話がしやすくなる。本について話すうちに、本以外のことについても話してしまう。本そのものが公共的であると同時に、本があることによってその空間が公共的なものになる。

 青木夫妻は6年前、「心身ともに死にそう」な状態で都会から東吉野村に移住してきたそうだ。森の暮らしは健康的で、本が心身を助けている。

週刊朝日  2022年7月1日号