是枝裕和(これえだ・ひろかず)/ 1962年生まれ。東京都出身。95年「幻の光」で監督デビュー。「誰も知らない」「そして父になる」「海街diary」「海よりもまだ深く」「三度目の殺人」などで国内外の数々の賞を受賞。18年「万引き家族」でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。19年、カトリーヌ・ドヌーブらを迎えた「真実」が、日本人監督の作品として初めてヴェネチア国際映画祭オープニング作品に選ばれた。(撮影/斉藤美春)
是枝裕和(これえだ・ひろかず)/ 1962年生まれ。東京都出身。95年「幻の光」で監督デビュー。「誰も知らない」「そして父になる」「海街diary」「海よりもまだ深く」「三度目の殺人」などで国内外の数々の賞を受賞。18年「万引き家族」でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。19年、カトリーヌ・ドヌーブらを迎えた「真実」が、日本人監督の作品として初めてヴェネチア国際映画祭オープニング作品に選ばれた。(撮影/斉藤美春)

 第75回カンヌ国際映画祭で2冠を受賞した「ベイビー・ブローカー」。インタビューで是枝裕和監督が話すエピソードは、ほぼ役者の魅力に終始した。

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 最初から「これは、役者を楽しめる映画です」と断言していた。

 第75回カンヌ国際映画祭の「コンペティション部門」で、主演のソン・ガンホさんが最優秀男優賞を受賞し、キリスト教関連の団体から“人間の内面を豊かに描いた作品”に与えられる「エキュメニカル審査員賞」を受賞した是枝裕和監督の映画「ベイビー・ブローカー」。ソン・ガンホさん演じるサンヒョンと、カン・ドンウォンさん演じるドンスが、赤ちゃんポストに預けられた赤ん坊をこっそり連れ去ることからこの映画は始まる。彼らは、赤ん坊を、子供を欲しがっている人に高値で売る“ベイビー・ブローカー”だった──。

 約10年前から、“赤ちゃんポスト”や“養子縁組”といった問題に興味を持ち始め、自身が子供を持ってからより関心を強めた監督は、2016年に、「ゆりかご」というタイトルで、A4サイズの紙に4~5枚程度の簡単なプロットをまとめた。

「ちょうどその頃、ソン・ガンホさん、カン・ドンウォンさん、ペ・ドゥナさんと、韓国での映画作りの話が持ち上がっていた時期で、主役のサンヒョンは、ソン・ガンホさんと決めて書きました」

 韓国での撮影は21年。プロットを脚本に書き起こして、実際に撮影に漕ぎ着けるまで、「万引き家族」がカンヌ国際映画祭のパルムドールを、ソン・ガンホさんが主演した「パラサイト 半地下の家族」は、アカデミー賞作品賞をそれぞれ受賞した。

「一緒に映画を作ろうという話が持ち上がったのが、『パラサイト~』を撮った後だったら、このキャスティングは実現しなかったかもしれない。新型コロナウイルスの感染拡大で、僕自身も、日本で撮影を予定していた映画のスケジュールが1本飛んだんです。いろんな予定が狂った中で、映画の撮影を進められたのは、本当に奇跡的なタイミングでした」

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