■なじみある風景 VR世界で再現

 同社ではVR技術を用いて仮想空間上に市役所をつくったり、コロナワクチン接種の手続きを仮想空間上で簡単に行ったりと、社会に密接に関わるモノやコトのメタバース化を計画している。メタバース上の市役所では現実同様に窓口があり、受付の人もいて、番号札を取って待つところまで同じだという。

「市役所の窓口のように、現実に見たことのあるなじみのある風景をVR上に再現することができれば、そこで何をすればいいのか直観的に理解することができ、最初の一歩のハードルを下げることができるのではと考えています」(冨田氏)

メタバース市役所のイメージ図(ピー・ビーシステムズ提供)
メタバース市役所のイメージ図(ピー・ビーシステムズ提供)

 意外なものをメタバース化しようという開発計画も持ち上がっている。東京芸術大学で学生と社会人によるプロジェクトをきっかけに設立されたviz PRiZMA株式会社では、「バーチャル墓地」事業を立ち上げ、実現に向けて活動している。同社代表社員の柿田京子氏は計画を思い立った経緯をこう説明する。

「現代の日本では、多くの人がお墓の問題を抱えています。私も祖父母のお墓が三重県にあったのですが、家族は全員、東京や大阪に出て、家族そろってのお墓参りが難しくなってしまいました。それでも、お祈りをしたいという気持ちはある。バーチャル空間にお墓があれば、時間や場所にとらわれず、家族そろってお祈りできることに気がつきました。今の時代に合った供養の仕方を提供したいと思ったのです」

 仮想空間内の「バーチャル墓地」は、遺影や位牌、故人の芸術作品を表示する「ギャラリー」と、故人の写真や手紙、音声データを保存する「タイムカプセル」という二つの空間で構成される。

「祈りの場は、故人の宗教や好きなデザインによって自由に演出ができます。そもそも祈るという行為は、ある意味別世界との交信だと考えていて、自分たちが生きている世界とは違ったメタバースの世界で、大切な人に会えるというのは良いアイデアだと思ってます」(柿田氏)

 誰でもスマホを持つ時代になったように、仮想空間が生活の一部になる日が来るのか。(本誌・佐賀旭)

週刊朝日  2022年6月24日号