この利用者、現実世界では40代男性だが、仮想空間での姿は三つ編みに耳の、制服姿の女の子だ。ジャンプや身ぶり手ぶりを交えながらメタバースについて語る。

「みんなアバターで参加しているので、参加者の素顔や素性はお互いほとんど知りません。かわいい女の子のアバターは人気で、男性でも使っている人は大勢いますよ。ボイスチェンジャーを使えば声も変えることができるので、本当の性別がわからないことも。年齢や性別、職業といった属性から解放されて、現実社会とは別の世界を、自分好みのアバターになって過ごすことを楽しんでいる人が大勢います」

 実際にメタバース上でこの取材をしている最中にも、男性の友人がアメリカから接続してきた。小柄な女の子のアバターだが、聞こえてくるのは低い男性の声の英語だ。あいさつをすると、ニコニコと会釈を返してくれた。

スマホの画像は、ヘッドセットに映し出されているのと同じもの。女の子の姿をした40代男性のアバター(右)が友人のアバターと会話している
スマホの画像は、ヘッドセットに映し出されているのと同じもの。女の子の姿をした40代男性のアバター(右)が友人のアバターと会話している

「魅力にはまってしまって、生活のほとんどを仮想空間で過ごす人や、VR世界内で恋愛関係になって、行動を共にする人も。恋人関係になることを『お砂糖』、破局することを『お塩』と呼ぶなど、すでに独自のカルチャーが発展しています」

 こうした仮想空間サービスは「VRChat」以外にも複数存在し、それぞれに多くのコミュニティーが生まれている。

 とはいえ、特にデジタルに疎い人にはまだとっつきにくいイメージがあり、今後はより幅広い層に向けてメタバースを広めようという動きもある。デジタルワークの推進を行う株式会社ピー・ビーシステムズ(福岡市)は今年1月、メタバース推進部を設置。高齢者など、ネットやデジタルに苦手意識のある人たちにも使いやすいメタバースを開発している。冨田和久社長がこう話す。

「現実をコンピューター上に表現できるようになったのは大きな技術の転換点ですが、今のままでは一部の愛好家の間でのブームで終わってしまうのではと危惧しています。新しい技術が出てきても、どう使ったらいいかわからないという方は高齢者を中心に大勢おり、本当に必要としている人が最新テクノロジーの恩恵にあずかれないことを、以前から問題だと思っていました」

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