内野聖陽さん(構成/長沢明 撮影/大野洋介 ヘアメイク/柴崎尚子 スタイリスト/中川原寛)
内野聖陽さん(構成/長沢明 撮影/大野洋介 ヘアメイク/柴崎尚子 スタイリスト/中川原寛)

 舞台「M.バタフライ」の稽古に励んでいる俳優・内野聖陽さんは、「自分の殻を破ること」が一番の快感なのだそうだ。「本当にできるのか?」というプレッシャーをずっと自分に課してきたからこそ、“名優”から“化け物”へと今も進化を遂げる。

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 これまでさまざまな役柄に挑戦してきた内野さんには、“演技派”とか“実力派”という枕詞がつくことが多かったが、そのイメージを、さらに一段進化させたのは、ゲイカップルの日常を描いたコミックの実写化である「きのう何食べた?」のケンジではないだろうか。見た目はオジサンだけれど、中身はふわふわ乙女のケンジ。でも、内野さんのケンジは、まったく違和感がないどころか、とても自由でチャーミングだった。演技派などという生ぬるい称号ではなく、「化け物」とか「モンスター」と言ったほうがふさわしいほど、そこには凄みとユーモアとが共存していた。

「僕は、役者として、いろんな役にチャレンジしたいという野心があるんです。言い換えれば、いろんな人生を生き尽くすことしか、僕のミッションはないと思っていて(笑)。最初にお話をいただくときは、『え? 俺がこれやるの? 無理でしょ?』と思うぐらい違和感があったほうが面白い。似たようなイメージの役のオファーでは、なかなか食指が動きません。せっかく役者になったのだから、僕は七変化どころか百変化、二百変化したい。新しいチャレンジには、毎回、闘志がめらりと湧き上がります(笑)」

「M.バタフライ」が、今の時代とリンクすることはあると思うかと訊ねると、「何か引っかかることがあるとすれば、コミュニケーションの問題かなと思います」と答えた。

「今、僕らはマスクをして日常を過ごしていますが、それによって僕たちのコミュニケーションはどう変化したんだろう。リモートでのコミュニケーションが進んでいるけれど、それは、コミュニケーションスキルが上がったことになるんだろうか、とか。この舞台のように、生身と生身のぶつかり合いでも、人間は騙されてしまうわけです。それに現代に生きている人たちが抱える多くの問題は、ほとんどがコミュニケーションの齟齬(そご)から来ているような気がしますし……。無理やり現代の問題に結びつけるとしたら、ですが(笑)」

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