病気を恐れて制限するよりも、まずはバランスのとれた食事を心がけることです。痩せすぎも問題で、少し太っている人は無理に痩せる必要はない。異常値に対応するには、管理栄養士や看護師、医師のもとで、しっかり食べて運動し、必要なところをコントロールしていくことが必要です」

 一方、黒尾教授は、食品添加物として使用されている無機リンに注意を促す。体内への吸収率が90%以上と高いため、なるべく摂取量を減らすべきだという。

「加工食品やファストフード、スナック菓子などを多く食べているとリン摂取が過剰となり、次第に腎臓の機能が低下していきます。実はかなりのリンが使用されているにもかかわらず、『リン』とは記されていない添加物も多い」(黒尾教授)

 食品の成分表示に「リン酸塩(Na)」などと表示されている場合はわかりやすいが、「メタリン酸(Na)」や「ポリリン酸(Na)」といった表記の場合もある。また、先ほどの表の下に示したように「かんすい」「酸味料」「pH調整剤」などの添加物にもリンが含まれるので要注意だ。

 腎臓の機能が正常かどうかは、健康診断で「eGFR(推算糸球体濾過量)」の値で調べられる。90を下回ると黄色信号だ。ただ、eGFRではリンを摂りすぎているかどうかわからない。調べるには血液検査でホルモン「FGF23」の量を測ればいいが、まだ健康診断には導入されていない。「FGF23」の値が「53pg/ml(ピコグラムパーミリリットル)」を超えるとリンの摂りすぎと考えられ、5年後に人工透析になる確率が高くなることが判明している。黒尾教授らが昨年まとめた論文によると、なんと45歳以上の4人に1人が「53pg/ml」を超える“人工透析予備軍”だったという。

 ところで、リンを排出する腎臓の機能は、人間の老化や寿命とも大きな関わりがある。

 黒尾教授がリンに注目した理由は約30年前のマウスの遺伝子操作の実験にさかのぼる。実験中、偶然ある遺伝子を壊してしまったところ、そのマウスの老化が加速した。さらに研究を続けると、「老化加速マウス」は体内にリンを大量にため込んでいるとわかった。黒尾教授は壊した遺伝子を「クロトー遺伝子」と命名。クロトー遺伝子は体内の余分なリンを腎臓から尿中に排泄するのに必要な遺伝子だった。

「老化の加速は体外にリンを排泄できなかったことが原因とわかった。クロトー遺伝子が壊れたマウスをリンの含有量が少ない餌で飼育したところ、一連の老化症状はピタリと治まりました」(同)

 腎臓がリンを体外に排出できないと、その「毒」が血液を通して全身に流れ込んで臓器や細胞を傷つけ、老化が加速する。健康な腎臓を保つことは長生きにつながるのだ。

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