『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』から
『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』から

 国民的作家、瀬戸内寂聴さん(1922~2021)の晩年を追ったドキュメンタリー映画「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」(中村裕監督)が27日から公開されるのに合わせ、映画と同名の書籍が刊行された。初公開される中村監督の「撮影日記」をはじめ、美術家の横尾忠則さん、作家井上荒野さん、俳優南果歩さんへのインタビューなどを収録。寂聴さんの含蓄深い言葉の数々や年表も加え、充実した内容になっている。

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 映画は寂聴さんの晩年17年間の歩みを記録する。映画化は2009年ごろから構想され、撮りためた約400時間の映像を凝縮させた形だ。原稿の執筆、法話、デモへの参加、健啖家らしい食卓などの場面が描かれる。語り、笑い、憂え、そして泣く寂聴さんの表情は瑞々しい。

 その背後で綴られた「撮影日記」(一部抜粋)を含む同名の書籍は、映画のパンフレットとして制作された。

 中村監督は言う。

「試写会で映画を見たある女性は『この映画は寂聴先生への恋文ね』とおっしゃっていました」

 映画の内容に基本的には沿っている「撮影日記」は、まさに「恋文」なのかもしれない。寂聴さんの最晩年の観察記であり、映画制作のためのノートであり、親子とも、男と女とも、友人同士ともいかようにも捉えることができ、いかなる関係とも言い切り難い2人の関係の記録でもある。

 その一方で、映画では登場しないエピソードも少なからず記されている。

 寂聴さんが絵を描くことに取り組もうとして横尾忠則さんに警戒されたり、寂聴さん自らが日記をつける決心をしたりするくだり、大学時代の友人の話、新型コロナウイルス感染症に対する所感……。少し弱気になったりそれでも最後は前向きに自らを鼓舞したり、寂聴さんの心の綾を綴って、起伏に富んでいる。

 中村監督が「撮影日記」をつけ始めたのは、2019年8月15日だったという。今回の書籍には2020年8月15日から、寂聴さんが亡くなった2021年11月9日をはさんで2022年2月13日までの19日分が収録されている。監督によると、2019年8月14日以前、命日とその前後なども加筆修正できる状態という。

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自ら語っていた終末観