灘中学の片田孫朝日教諭(撮影・松岡瑛理)
灘中学の片田孫朝日教諭(撮影・松岡瑛理)

「キャリア教育」と聞くと、一般的には進路や就職指導のイメージが強い。近年、学校教育の現場で、その対象が広がり、「ライフキャリア教育」という概念が生まれている。

【写真】灘中学で行われた「乳幼児の子育て」についての授業風景

 関西屈指の難関校として知られる灘中学・高等学校(神戸市東灘区)もその一つ。社会科を中心に、ときに他科目の教員とも連携して「結婚」「子育て」「ワークライフバランス」など、身近な課題を取り上げる。その様子を覗いてみた。

 4月26日、灘中学の教室で、中学3年の道徳の授業が始まろうとしていた。この日のテーマは「乳幼児の子育て」(第2回)。担当するのは、同校の片田孫朝日(かただ・そん・あさひ)教諭(45)だ。授業の冒頭、片田さんは生徒たちにこう呼びかけた。

「『ワークライフバランス』という言葉を聞いたことはありますか。『仕事』と『生活』、バランスの取れた暮らしをしようという発想にもとづく言葉です。これからの日本では、男が豊かに生きるためにも、女が豊かに生きるためにも、こうした考え方がとても大切になってきます」

 片田さんは2020年、長女が産まれたことをきっかけに、4カ月の時短勤務と3カ月の育児休業を取った。男性で育児休業を取得したのは、同校の教員で初めてだったという。共働きであるパートナーが仕事にフルタイム復帰した今、平日は17時半までに学校の業務を切り上げ、子どもの保育園のお迎え、夕食作り、寝かしつけなど、家事全般をこなしている。

 初回の授業では、出産が女性の身体に与える負担や、家事・育児が妻もしくは夫のいずれかに集中する「ワンオペ育児」の苦労について語った。

 2回目となるこの日の授業では、初回の授業内容について生徒から寄せられた感想を一つひとつ読み上げた。「育児を母親がやるというのは、思い込みだったと思った」「赤ちゃんを育ててみたい」といった声に交じり、片田さんが「気になった表現」として挙げたのが「もし子どもができたら自分も育児を手伝おうと思った」というコメントだ。

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