帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「老害について」。

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【魂の成熟】ポイント

(1)「老害」といういやな言葉が使われることがある

(2)老人が害になることって、本当にあるのだろうか

(3)老化により本来、成熟する魂が害になるはずがない

「老害」という言葉があります。いやな言葉ですね。老人が害になるという意味でしょうか。

 確かに、最近、高齢者が引き起こす交通事故がニュースになったりします。アクセルとブレーキを踏み間違えてしまうというのですから、これが老化によるものだとしたら、老害だといえます。そんな事態になる前に運転をやめるのは大事なことだと思います。

 しかし、こうしたこと以外に老人が害になることって、あるのでしょうか。日々の診療で感じるのは、80歳以上の患者さんは、往々にして話が長いということです。話が止まらなくなることがよくあります。でも、これは迷惑というほどではありません。話が長いのは、その人の個性ですから尊重すべきです。

 思い起こしてみると、私の父親も80歳を超えたころ、車を農道から田んぼに落として、これを機に運転免許証を返納しました。しかし、日常生活で老害など、とんでもなかったです。若いころの父は結構、怒りっぽくて、私が映画に夢中になって帰りが遅くなってしまったときには、殴られたりしました。でも、歳をとってからは、性格が円満になり、誰からも愛されました。私の母が亡くなり、一人暮らしになってからは、しばしば、私の病院にやってきて、私の部屋に入り、私の著書を小一時間、読んでは静かに帰っていくという、端正な振る舞いでした。

 私と同様、晩酌が好きで、向こう三軒両隣のご近所さんが届けてくれるつまみで、毎晩、酒を楽しんでいました。そういえば、祖父も、よく1時間ぐらいかけて徒歩でわが家にやってきて、親父と酒を酌み交わしていました。ニコニコと盃を傾ける穏やかでやさしいおじいさんでしたね。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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