フィンランドのマリン首相
フィンランドのマリン首相

 そこには、防衛費を増額しないと「世界」の笑いものになるという世界とは全く異なる「別世界」がある。安倍氏の言う「世界」とは、欧米諸国の権力者たちの世界。各国の世論を作る国民の評価ではなく、バイデン米大統領らが「よくやった」と言ってくれるかどうかが基準だ。だが、それで日本の平和国家のイメージが傷つけばどうなるか。

 中国との対立が激化した時、「あの平和主義の尊敬すべき日本」が中国に脅かされていると世界が見るのか、「あの米国のポチ日本」なら中国に敵視されるのは当然と見られるのか。それによって、中国の出方は全く異なってくるだろう。

 憲法前文が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と宣言し、9条で戦争放棄と戦力不保持を定めたのは、単なる理想主義ではない。国民の命と権利を守るには、その方が、強い軍隊で戦争による紛争解決の準備をするより有効だという極めて「現実主義的な選択」をしたのである。

 安倍氏が理解できない憲法9条を、今まさに戦火の中にあるウクライナの人々が理解し尊重しようとしていることを日本人は良く知るべきだ。

週刊朝日  2022年5月27日号から

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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