※写真はイメージです(GettyImages)
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 ライター・永江朗氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、『母親になって後悔してる』(オルナ・ドーナト著 鹿田昌美訳、新潮社/2200円・税込み)を取り上げる。「

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 5月8日は母の日だった。母親に感謝する日。でも、感謝したくない子もいるだろうし、感謝されたくない母親もいるだろう。父親も同様。

 オルナ・ドーナト『母親になって後悔してる』は書名そのままの本。小説ではなく、イスラエルの社会学者が女性23人にヒアリングした研究。

 結婚するのがあたりまえ、子供をもうけるのがあたりまえ、子供を愛するのはあたりまえ、母親であることに喜びを感じるのがあたりまえ……。出産や子育てをめぐってはこういう「あたりまえ」がたくさんある。でも誰もがそれにあてはまるとは限らない。母親になったことを後悔している人もいる。

 母親になることで人生が変わる。それは「母親ではない」人生をあきらめることでもある。母親になると常に「母親であること」を要求される。誰から? 社会から、家族から、そして自分自身から。それを苦しいと感じる人もいる。

 母親になって後悔しているのに、2人目、3人目を産む人もいる。それがあたりまえだというプレッシャーがあるからだ。

 だが、強調しておかなければならないのは、彼女たちが子供を憎んでいるわけではないということだ。虐待もしていない。彼女たちは子供を愛している。そして、後悔しているということを子供に知られたくない、知らせてはならないと思っている。だから苦しい。

 この研究について学術誌に発表し、マスコミの取材を受けると、彼女たちは激しい非難を浴びた。母親になったことを後悔するなんて許せないというのである。一方で共感する声も多いそうだ。母性にまつわる神話は破壊しなければならない。

週刊朝日  2022年5月20日号