澄んだ歌声が印象的な、シンセポップのアーティスト・Ink Waruntorn (c)BOXX MUSIC
澄んだ歌声が印象的な、シンセポップのアーティスト・Ink Waruntorn (c)BOXX MUSIC

「POLYCATは本当に日本のシティポップや80年代の洋楽を血肉化していて、『ベストヒットUSA』や『MTV』世代にはたまらない魅力があります。Naさんはシティポップを深掘りしていくうちに70年代の山下達郎までさかのぼっていきました。日本のシティポップに影響を受けた他のタイのアーティストからは、角松敏生やオメガトライブ、菊池桃子の名前もよく挙がります」

 山麓さんによると、彼らが単に日本のJ-POPやシティポップを好きだったというだけでなく、楽曲への取り入れ方が絶妙だと指摘する。

「洋楽、J-POP、K-POPとその時代ごとの流行の音楽を自国の音楽とミックスしたのがタイの音楽です。T-POPがユニークなのは、一度にたくさんの要素を混ぜ合わせてしまうところと、その混ぜ方のバランス感覚が見事な点にあります。J-POPに通じる情緒的なメロディーと、K-POPのように力強いビートにタイ語の特長である声調を生かせるラップまでも組み合わせて、エレクトロからジャズまでさまざまなジャンルの要素をまるでタイ料理のスパイスとハーブのようにふんだんに使い、最終的に違和感なく一曲に仕上げてしまうんです」

 もう一つ、タイ語の響きの柔らかさからくるリラックス感も大きな魅力だという。

「キャッチーなインパクトが重視されるJ-POPや、緻密(ちみつ)さと高い完成度が求められるK-POPに比べると、T-POPにはアレンジや楽器編成にいい意味でのゆるさが残っていて、BPM(曲のテンポ)も遅めのものが多いです。そこにタイ語の響きも相まって、“サバーイ”(タイ語で「気持ちいい」)なリラックス感が感じられ、聴いていてとても落ち着けます。僕が初めてタイのポップスに触れた頃、日本は東日本大震災の後で深刻なムードに包まれていました。そんな中で聞くT-POPは、日本にあふれていたどんな応援の言葉よりも胸に響いたんです」

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今年もタイフェス T-POP人気歌手が日本の人気ラッパーと共演