東京・西荻窪「本屋ロカンタン」萩野亮さんにこの時期に読みたいお薦めの本を3冊ずつ選んでいただきました。独自の品ぞろえや選書で知られる個性的な街の本屋さんが今薦めたいものは?

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 はやいもので大型連休。ところが流行り病いは収束のめどすら立たず、小旅行でさえ憚られる時世になおあります。はて、今年はどうしましょうか。

 ひとつ、まことに有意義な過ごしかたを提案します。

「何もしない」

 ズコー、と前方に転んだかたには、タイトルそのままのこの本をおすすめしましょう。『何もしない』(ジェニー・オデル著、竹内要江訳、早川書房)。

 生産せよ、消費もせよ、という資本主義のかけ声に加えて、インターネットに常時接続された現代社会では、ちょっとこれを見てごらん、ほしいだろう、つながりたいだろう、という「注意経済」が蔓延しています。そして気づけば何かを「させられて」いる──。

「私が定義する『何もしない』の重要なポイントは、リフレッシュして仕事に戻ったり、生産性を高めるために備えたりすることではなく、私たちが現在『生産的』だと認識しているものを疑ってかかるということだ」

 休みの日くらい「何もしない」をするのがよい。フランスの社会主義者が19世紀末に世に問うた『怠ける権利』(ポール・ラファルグ著、田淵晉也訳、平凡社ライブラリー)をさらに手に取れば、自信をもって日々怠けることができるでしょう。いまある社会は歴史的な形成物であるに過ぎません。

 この2冊を通じて、働くことが心底いやになり、仕事をやめる、サボタージュする、などの副反応が出るおそれがありますが、問題ありません。きっとそこから新しい人生が始まります。たとえば、難儀な病いを抱えたせいで一般的な賃労働がむずかしく、「生産性」を著しく欠いた私は、そうして自宅を本屋として開きました。夜は8時に寝て、翌朝8時に起きます。休みの日は何もしません。

 うーん。でも、せっかくの連休だからやっぱり旅がしたいナ。左様、私も旅は好きです(何もしないための旅ですが)。熱海や有馬でノンビリすることさえためらわれるのなら、思いきって古代ローマへおもむくのはいかがでしょうか。予算は1日5デナリです。タイム・トリップに該当する旅行ですが、『古代ローマ旅行ガイド』(フィリップ・マティザック著、安原和見訳、ちくま学芸文庫)が行きかたから見どころまでていねいに案内してくれますヨ。

週刊朝日  2022年5月6・13日合併号