「新しい資本主義実現本部事務局」の看板を掲げる(左から)山際大志郎経済再生相、岸田首相、木原内閣官房副長官
「新しい資本主義実現本部事務局」の看板を掲げる(左から)山際大志郎経済再生相、岸田首相、木原内閣官房副長官

 岸田文雄首相が就任してから半年が経った。読売新聞社の4月の世論調査では、内閣支持率は59%と、高水準を維持。伸び悩む野党を尻目に、7月に迫る参院選も圧勝確実……と、政権幹部の高笑いが聞こえてきそうだ。

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 だが、ちょっと待ってほしい。岸田首相が総裁選で掲げ、所信表明演説でも「数世代に一度の歴史的挑戦」とぶち上げた「新しい資本主義」は、いったいどこへいってしまったのか。岸田首相は7月の参院選で公約の柱に掲げる構えだというが、身内の自民党内からも「内容が生煮えで具体的に何を打ち出すのかわからない」(閣僚経験者)との声しか漏れてこない。

 岸田首相は、これまでの自民党政権が進めた新自由主義路線に限界が来ているという認識を示してきた。「新しい資本主義」では、格差の拡大や気候変動といった問題に対処する政策のグランドデザインが示されるものと期待されていた。

 しかし、現実はどうか。岸田首相が総裁選で掲げていた金融所得課税の強化は、株価下落を受けて早々に頓挫。二酸化炭素の排出量に応じて課税する炭素税の導入も、産業界の反発で見送られた。

 より長期的な政策を考えるため昨年10月に発足した「新しい資本主義実現会議」に集められた有識者には、日本経団連の十倉雅和会長など経済3団体のトップ、連合の芳野友子会長など、「これまでの資本主義」を支えてきた面々がズラリ。

 同会議が昨年11月に発表した「緊急提言」を見ても、冒頭に「成長戦略」として「科学技術立国の推進」「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」などが掲げられ、分配政策の記述は後回し。従来の政権との違いが感じられない。

 そもそも、立ち上げから半年が経つのに、会議はたった4回しか開催されておらず、スピード感もゼロだ。経済評論家の加谷珪一氏はこう語る。

「何となく格差是正したいという気持ちはわかるのですが、具体的に何をするかが見えない。賃上げといっても、企業の経営が根本的に変わらないと付加価値も上がらず、賃金も上がらない。企業のガバナンス強化などの地味で時間のかかる改革が必要ですが、そうした踏み込んだ政策提言はほとんど見受けられません」

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