延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。ウクライナ侵攻に関する緊急特番について。

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 ウクライナの平和を祈って緊急番組を作った。プーチンの軍事侵攻から2週間目、10万以上のロシア兵がウクライナを囲んでいた。

 ラジオは声と音楽で成り立つ。今回の声は当事者、市民、音楽は反戦歌。東京新聞社会面にカテリーナさんの写真が載っていた。チェルノブイリ原発事故直前に生まれた、ウクライナの民族楽器バンドゥーラ奏者である。知り合いの記者に連絡先を聞いた。

 80代の大先輩ディレクターから留守電が入っていた。「反戦歌の代表曲『花はどこへ行った』はウクライナ民謡が原曲だよ」。その場で番組タイトルが決まった。「News Sapiens緊急スペシャル~花はどこへ行った~」

 サックス奏者の坂田明さんのライブは新宿ピットインで観たばかりだった。

 原爆投下の数カ月前、広島に生まれた坂田さんは、チェルノブイリ原発から60キロ北の病院の講堂で甲状腺がんや白血病の子どもたちを前に「ひまわり」を吹いている。ウクライナで撮影された名作映画「ひまわり」の主題歌。戦争で引き裂かれる新婚夫婦をマルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンが演じていた。「坂田さん、その曲をラジオで吹いてくれませんか?」

 ひまわりはウクライナの国花だ。侵攻が始まった頃、ネットで拡散されていたのがウクライナ人女性がロシア兵に「あなたが死んだら、ひまわりの花が咲く」と種を渡す映像だった。

 番組パーソナリティーはピーター・バラカンさん。音楽に詳しく、そのバックグラウンドを自分の言葉で語る。控えめな声だが嘘のない強い意志を感じさせる口調の彼に「なぜ戦争が起きたのかをここ日本で考え、反戦歌を流すことにどんな意味があるのかを考える内容です」と説明、番組の骨格が固まっていった。

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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