延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。俳優、佐藤浩市さんについて。

【写真】佐藤浩市さんの「役者唄 60 ALIVE」

*  *  *

 俳優佐藤浩市は、三國連太郎、三船敏郎、高倉健、原田芳雄ら希代の頂(いただき)に連なる日本映画主役の顔である。

 彼の映画を観て育ったという映画監督三島有紀子は「浩市さんが(スクリーンに)現れた瞬間に純度が高まり、椅子に座り直してしまう」と言う。

『青春の門』『KT』『64−ロクヨン−』、TVドラマなら『官僚たちの夏』など、深い洞察に裏付けされた演技は現代史の扉を開き、戦後ニッポンの群像をつまびらかにしてきた。

 ほれぼれする男っぷりと少年のはにかみ。趣味は「佐藤浩市」というほど、僕にとって彼の存在そのものが時代の指標(メルクマール)になっている。

 そんな浩市さんが歌手としてアルバムを出した。歌うのはブルース。タイトル『役者唄 60 ALIVE』のリードには「役者だから歌える唄がある」と記されていた。

佐藤浩市さんの「役者唄 60 ALIVE」
佐藤浩市さんの「役者唄 60 ALIVE」

「二十歳を過ぎた頃、原田芳雄さんのライブを初めて観ました。歌の上手さが図抜けていてね。段違い。表現力が違う。そのうち芳雄さんのステージで歌わされるようになったんです」

 50歳の手習いで歌をはじめ、(原田さんの誕生日2月29日開催の)原田芳雄追悼ライブにも立ち、還暦を機に企画されたアルバム作りはコロナで流れかけたが、「芳雄さんの歌を中心にとの話になり、彼の歌を歌い継げるならと腑に落ちた」。

「ONLY M‌Y SONG」「DON’T YOU FEEL LONELY?」「朝日のあたる家」「ブルースで死にな」……。これら名曲が青山のブルーノート東京で一発録りされた。

「横浜ホンキー・トンク・ブルース」の間奏ではこう語りかけている。

「昨日良かったのが今日は駄目、今日駄目だったのが明日良くなるかもしれない。そんな中、苦しいこと悲しいこと、嬉しいこと全部ひっくるめて人に伝える。そのために自分たちがいる。来年も皆でここにいられる日を祈っています。“We Love Music, We Love Movie!”」

著者プロフィールを見る
延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

延江浩の記事一覧はこちら
次のページ