ライター・永江朗氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、『奈良で学ぶ寺院建築入門』(海野聡著、集英社新書 1100円・税込み)を取り上げる。

*  *  *

 最近、お寺にお参りすることが増えた。トシのせいだろうか。お迎えが近いのか。散歩の途中、お寺があると門をくぐり、本堂の前で手を合わせる。祈るのは世界平和と家族の健康。

 お寺の建物って、どれも同じように見えて、でもよく見ると微妙に違っているんですね。違っていることに気づくと、お寺観察が楽しくなる。

 もっとよく知りたいと思っていたところに素晴らしい本が登場。海野聡『奈良で学ぶ寺院建築入門』。唐招提寺、薬師寺、興福寺、東大寺の四つのお寺を例に、寺院建築の歴史や細部、見どころを教えてくれる。

 なぜ奈良なのかというと、古いお寺の建物が残っているから。実は京都のお寺は歴史こそあれ建物はあまり古くない。応仁の乱はじめ戦乱や火事で焼けているからだ。

 この本のいいところは、とても論理的であること。お寺の塔やお堂がなぜそのような形になったのか理屈がわかる。理屈がわかると、他のお寺を見たときにも応用が利く。

 まず柱を立て、梁を渡し、屋根を載せる。それだけじゃ狭いから廂を追加する。柱の根本が雨で濡れて腐らないよう屋根を伸ばす。自重で屋根が折れないように組物で支える。

 こうしたことを古代の人びとは試行錯誤しながらやってきた。建てられた時代=技術の進歩によって建物の形が変わる。塔から金堂へと伽藍内での中心も変わる。また、古い建物は何度も補修を受け、建立当初とは形が変わることもある。

 この本を読むと、お寺の見方が変わりますね。新書なのでポケットに入る。コロナが終息したら、奈良の古寺めぐりに出かけよう。

週刊朝日  2022年3月25日号