岩井ヨシエさん
岩井ヨシエさん

 ファッションモデル。若くてスタイルのいい女性の職業というイメージがあるが、最近は60代モデルが活躍している。オシャレや美容に興味を持つシルバー世代の割合も高く、雑誌や広告で60代ファッションが取り上げられる機会も増えてきた。

【写真】ファッション誌「素敵なあの人」の撮影風景

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「窓のほうを見て、バッグをブラブラさせてみて」「そうそう、目線はもう少し右」

 カメラマンのリクエストに応えてポーズをとる女性は岩井ヨシエさん。60歳の人気ファッションモデルだ。この日は60代女性向けファッションブランド「ウタオ」の雑誌撮影。スタイリストやメイク、多くの編集者が見守る中、カメラのレンズの前に立ち、この場の主役を演じている。撮影された写真を隣室のモニターで見る編集者からは「キレイ」「カワイイ」と歓声も上がっている。

 この日は、売り上げ10万部を超えることもある月刊ファッション雑誌「素敵なあの人」(宝島社)の撮影だった。2019年9月に創刊した同誌のターゲットは60代の女性だ。女性ファッション誌が次々と休刊する中、最も元気がある雑誌の一つだ。

 岩井さんは創刊時からのレギュラーモデル。20代で一度モデルを引退し、デザイナーを目指して渡仏。帰国後に結婚・出産して、病に倒れた夫の会社を引き継いで社長業もこなしていたが、57歳のときに編集長にモデル復帰を打診されて快諾した。今では読者から「岩井さんのように年を重ねたい」と言われる同誌の人気モデルとして活躍している。

「30年のブランクです(笑)。復帰を決めたときは『モデルの仕事ってどうやるんだっけ』みたいな感覚でしたが、実際にカメラの前に立ったらすぐに思い出しました。しっかりシャッターの音のリズムに合わせてポーズをとっていました」(岩井さん)

 モデルの仕事も若かったときより余裕をもって臨めているという。

「20代の頃は自分がきれいに撮られたくて、指先にまで力が入っていたかもしれません。でも今はカメラの向こうの読者に何を届けるべきかを考えながらできている。60歳ですからたるみやシワ、シミだってありますが、それを気にしていたらモデルモデルしすぎて昔みたいになってしまう。今の自分を信頼して出していったほうが親近感を持ってもらえると考えて仕事を楽しんでいます」(同)

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