十代目松本幸四郎 1979年3月、『侠客春雨傘』で三代目松本金太郎を襲名して初舞台。81年10月、『仮名手本忠臣蔵』で七代目市川染五郎を襲名。2018年1月、歌舞伎座高麗屋三代襲名披露公演「壽 初春大歌舞伎」で十代目松本幸四郎を襲名(撮影/岡田晃奈)
十代目松本幸四郎 1979年3月、『侠客春雨傘』で三代目松本金太郎を襲名して初舞台。81年10月、『仮名手本忠臣蔵』で七代目市川染五郎を襲名。2018年1月、歌舞伎座高麗屋三代襲名披露公演「壽 初春大歌舞伎」で十代目松本幸四郎を襲名(撮影/岡田晃奈)

 東京・歌舞伎座で開催中の「三月大歌舞伎」で松本幸四郎(49)が五右衛門を演じる『増補双級巴 石川五右衛門』が評判を呼んでいる。叔父で昨年11月に亡くなった人間国宝・中村吉右衛門の当たり役で、直接、指導を受けた演目。吉右衛門への思いをはじめ、芸の継承について聞いた。

【写真】幸四郎氏が初めて演じた石川五右衛門

*  *  *

――『石川五右衛門』は天下の大盗賊が活躍する奇想天外な物語。幸四郎が初めて五右衛門を演じたのは、市川染五郎時代の平成23(2011)年。それ以来五右衛門を演じるのは2度目。五右衛門は、叔父で人間国宝の中村吉右衛門が生前最後の舞台となった『楼門五三桐』で演じた役でもあるだけに、並々ならぬ思いで臨んでいる。

松本幸四郎(当時・市川染五郎)の石川五右衛門(11年、松竹提供)
松本幸四郎(当時・市川染五郎)の石川五右衛門(11年、松竹提供)

 五右衛門は天下の大盗賊。「あの石川五右衛門」として登場します。私が叔父の演技で感じていた何事にも動じない大きさ、悪の魅力というものが必要とされる役だと思います。高麗屋(※初代松本幸四郎が奉公した店が由来とされる屋号)の芸というものは、弁慶を筆頭に骨の太い男を代々演じておりますが、それもあって、叔父からは「五右衛門ができないといけない」と、細かく教えていただきました。

――演じるには「まずは気持ち、心が大切」だが、吉右衛門が特に丁寧に教えてくれたのが「声」だ。声は心を伝えるための「技」だという。

 私自身、歌舞伎は音楽的な演劇だと思っていますが、それにはそれだけの技術が必要です。音域にしても、声の細い太いであったり、セリフとセリフの間であったり。叔父はとてつもない声を持っておられました。教えていただく時には、「こういうふうに言うんだ」「この音なんだ」「この大きさなんだ」と声を分解して教えていただいた。言葉の持っていき方というのは一言一言一字一字、かなり細かく、ある意味繊細なのですが、役としては豪快でないといけない、伝わらないといけないという難しさを感じました。

――初演ではその声ばかり気にしていた、と言う。

 声を出すということと、公演をひと月持たせるということ。それを考えるだけでぎりぎりでした。でも、それだけの声がないと、五右衛門の存在の大きさというものはお伝えすることができません。叔父の芸は心と技のバランスが整った、完成された芸だと思います。

 私は叔父に教えていただき、叔父の五右衛門と同じ舞台に立っていた役者です。皆様に私の五右衛門を喜んでいただければ、「私の叔父ってすごいでしょ」ということをお伝えできる。そういう意味で、僕の体を通して叔父のすばらしい五右衛門を感じていただけることを目標に勤めています。

次のページ