北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長
北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長

 米ロが結んだ合意でさえ、簡単に反故にされるのを見れば、自分たちは絶対に核を手放してはいけないと考えるのは当然だ。これまで、金正恩氏は、アメリカとの平和条約締結を北朝鮮非核化の前提条件としていたが、それだけでは不安だという思いに駆られるだろう。

 さらに、今回の戦争でもう一つ見逃せないことがある。それは、ロシアが、核兵器の使用をちらつかせて、ウクライナや欧米から譲歩を引き出そうとしたことだ。ロシアのGDPは米国のわずか14分の1。軍事力でもはるかに劣勢だ。それにも関わらず、この戦争の結果、仮に、ロシアが何らかの成果を得られた場合、それは核の脅しのおかげだと金正恩氏が考えてもおかしくはない。

 今後、北朝鮮は、今回の事態を念頭に置いて、核の脅しも使いながら、交渉のハードルをさらに上げてくることが予想される。

 北朝鮮に核放棄を迫ることは一層難しくなったと考えた方がよさそうだ。

週刊朝日  2022年3月18日号より

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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