(c)PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020
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「クィーン」(2006年)でエリザベス女王を演じアカデミー主演女優賞を獲得、世界に名を馳せたヘレン・ミレン(76)。新作「ゴヤの名画と優しい泥棒」では、女王とは対照的な、英国ニューカッスルなまりも強い労働者階級の妻を演じる。

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 英国が誇る名優として愛されるヘレン・ミレン。新作では頑固だが優しい夫ケンプトン・バントン(ジム・ブロードベント)の愛妻ドロシー役だ。

 物語の始まりは1961年のロンドン。ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれる。この大事件の犯人は、60歳のタクシー運転手ケンプトンだった。絵画を盗むことで高齢者の公共放送(BBC)の受信料の無料化を主張したのだ。逮捕され、裁判で有罪を言い渡されるはずだったのだが……。驚きの結末を迎えるこのストーリーは、実話に基づいている。

──この事件について知っていましたか?

「実は知らなかったの。この事件が起こった当時、私は16~17歳だったはず。正直なところ、若いころは新聞も読まなかった。40代くらいになるまで、自分の人生を生きるのに目いっぱいだった。だから、脚本を読むまでこの事件を全く知らなかった。最初読んだときはフィクションかと思ったの。ところが実際に起こったことだった。すべてが真実だったのは、うれしい驚きだった」

──「クィーン」での演技で評価されましたが、あなた自身は労働者階級の出身で、今回の役柄ドロシーにより親近感を抱いたのではないですか?

「確かに生い立ちを考えれば、私はエリザベス女王陛下よりもドロシーに近いと思う。女王陛下のような生活を私は全く経験したことがないから。とはいうものの、役柄という点では、生活様式という要素を取り除けば、二人は人間的にそれほど異ならないと思う。私は役を演じるとき、自分との共通点というのを常に探す。外側をはがして残る人間性に、目を向けようとする。エリザベス・ウィンザー、私はあえて彼女をこう呼びたい。女王陛下ではなく一人の人間として見ているから。今回も、ドロシー・バントンがどういう人間であるか、という点から見て役作りを始めた。たぶん多くの俳優も同様で、特別な方法ではないと思う」

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