※イラストはイメージです
※イラストはイメージです

 在宅療養の最大のメリットは、何かと制約の多い病院と違って自由に過ごせることにある。家で過ごす時間をより良いものにするためには、本人の希望をかなえることが何より大事だ。家族はどんな姿勢で支え、希望をかなえる環境を整えるべきなのか。

【「したい」をかなえるためには?】

*  *  *

 在宅医療を受けているAさん(76)は、妻と二人暮らし。末期がんで余命半年と診断されてから、入院していた病院から自宅に帰ってきた。移動は車椅子がメインだが、トイレには自分で立って行くことができ、食欲もある。

(週刊朝日2022年3月11日号より)
(週刊朝日2022年3月11日号より)

 朝7時過ぎ、テレビから流れるニュースと、妻が朝食を作る音で目が覚める。焼き魚、味噌汁、サラダの和定食が朝食の定番。食後は縁側で日向ぼっこしながら新聞を読んだり、愛と遊んだり、体調が良い日は妻と一緒に近くの公園まで散歩に出かけたりする。

「おはようございます。体調はどうですか?」

 朝10時半ごろになると、家のチャイムが鳴り、看護師がやってくる。看護師が訪問する日は、Aさんの体温を測ったり、血圧のチェックをしたりして身体の状態を確認する。病気のことや日常生活も含め、困ったことがないかも聞いてくれる。会話をしながら、痛み止めの飲み薬の効果と、副作用が出ていないか、薬が正しく飲めているかもあわせてチェック。約1時間の訪問看護が終わると、入れ替わりでホームヘルパーがやってくる。同時に妻は長年続けている習い事に出かける。

 この日、ヘルパーはシーツの洗濯と交換、そしてAさんの希望を聞きながら昼食を準備してくれた。体調が悪い日には、食事の介助もしてくれる。ヘルパーとの何気ない会話も、Aさんにとって楽しみの時間だ。昼食後は、少し横になってテレビを見ながら休憩する。

 15時になると、看護師と介護スタッフが、訪問入浴のために訪れる。Aさんは自宅の昔ながらの深い浴槽に一人で入ることが難しくなり、退院後は週に2回ペースで訪問入浴を依頼している。訪問入浴では爪切りもお願いできる。

著者プロフィールを見る
松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

松岡かすみの記事一覧はこちら
次のページ