※写真はイメージです
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 女性患者の胸をなめたとして医師が準強制わいせつ罪に問われた事件で、先月、最高裁が二審の高裁の逆転有罪判決を破棄して、裁判のやり直しを命じた。有罪の決め手の一つとされたDNA鑑定に疑問符が投げかけられ、厳密であるはずの科学捜査の問題点が浮き彫りになった。医療ジャーナリスト・福原麻希氏が解説する。

【せん妄の事例はこちら】

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 2016年、東京都内の病院で30代の女性が乳房にできた6センチのしこり(乳腺線維腺腫)の摘出手術を受けた。その4年前にも、同じ病院で同じ医師からしこりを切除してもらった。乳腺専門の40代の男性外科医で約500例の手術経験があった。手術前、医師は術後に乳房の形が崩れないよう(*1)、どのように切除するか皮膚に印を付けて、胸の写真を撮影するなどして、慎重に手術計画を立てた。

 術後、女性はひどく痛みを訴えた。医師は鎮痛薬の処方と、手術部位から出血がないか確認しようと病室を訪れた。午後3時前後のできごとで、女性は4人部屋の入り口に近いベッドにいた。

 その直後、女性が「回診時に医師からおっぱいをもまれたり、乳首をしゃぶられたりした」と母親や看護師に号泣しながら訴えた。LINEで上司に「たすけあつ」「て(原文ママ)」「いますぐきて」などとメッセージを送ったことから、上司が110番通報し、夕方には病院に警察が来た。

 女性警官が乳房をガーゼでぬぐって鑑定に出した。付着物は唾液(だえき)からと強く推定され、DNA型が医師のものと一致したこと、DNA量が大量とされ、その理由は「医師が女性の乳房をなめたから」とされて、医師は逮捕・起訴された。

 医師は一貫して、容疑を否認している。

 裁判の争点は、(1)医師がわいせつ行為をしたことは事実か、あるいは術後覚醒時のせん妄による幻覚だったか、(2)検察が証拠として提出した警視庁科学捜査研究所(科捜研)の鑑定結果は信頼でき、犯行を裏付ける証明力があるか、だった。

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