芥川賞受賞時
芥川賞受賞時

 スターとして自身を上回る注目を集めた弟・裕次郎氏には、複雑な思いがあったようだ。前出の山崎氏はこう証言する。

「10年ぐらい前、家族同士で食事をしに行ったとき、慎太郎さんは裕次郎さんが歌って大ヒットした『勇者たち』を歌った。非常にうまかったので褒めたら、『俺は裕次郎より歌がうまいんだ』と悦に入っていた。常に太陽のような存在だった弟を意識していたんだな、と思いました」

 12年、国政に電撃復帰するものの、14年の衆院選に落選すると政界を引退。すでに80歳を超えていたが、作家としての創作意欲は衰えていなかった。16年、田中角栄氏の一人語り風という異例の小説『天才』を発表し、またも世間の話題をさらったのだ。時事通信記者時代に石原氏と親交があった政治評論家の屋山太郎氏がこう語る。

「あれだけ田中角栄批判をしていたのに晩年、田中氏を評価するような本を書いたのは驚いた。論理の人というより感情の人。あんなに人間的な人はいない。良くも悪くも、光っていた男でした」

 毀誉褒貶(きよほうへん)はあれど、政治家・作家として最大の命である「言葉」で強烈に表現し続けた時代の寵児だったことは間違いない。だから、人々はいつも彼に注目した。私事で恐縮だが、筆者は石原氏が参院に初当選した2カ月後に生まれ、石原氏が好きだった両親に同じ読みの名前を付けられた奇縁がある。心よりご冥福をお祈りいたします。合掌。(本誌・村上新太郎/AERA dot.編集部・上田耕司)

(週刊朝日2022年2月18日号より)
(週刊朝日2022年2月18日号より)

週刊朝日  2022年2月18日号

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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