二酸化炭素を吸収して電気をつくり出す未来の家(天尾さん提供)
二酸化炭素を吸収して電気をつくり出す未来の家(天尾さん提供)

“人工光合成”をする家が、生活に必要な電力をまかなうだけでなく、生活などで出る二酸化炭素も吸収してくれるという。夢のような研究に取り組んでいるのが、大阪市立大学・人工光合成研究センターの天尾豊教授。

 沖縄県宮古島には実験用の家があり、2022年には「大学でつくり上げたシステムを持ち込み、実際の太陽光などで、効率性や耐久性を高めるための実証試験を実施する予定」(天尾さん)。

 人工光合成はどんな仕組みなのか。植物の光合成に似たところがある。太陽光の助けで、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)を化学反応させ、ギ酸(HCOOH)をつくる。この過程で二酸化炭素はなくなる。ギ酸は、常温で無色の刺激臭のある液体。自然界ではアリやイラクサに含まれている。

 ギ酸は蓄えておき、必要に応じ触媒と反応させて水素を取り出す。これをガソリンで動くエンジンと同じような内燃機関で、水素を燃料とする水素エンジンで使い、発電する。その電力で生活をまかなう。

 ギ酸から触媒で水素を取り出す際に二酸化炭素が発生するが、これも人工光合成で吸収。「大気中や家庭で出た二酸化炭素も吸収される」(同)

 人工光合成は、家の屋根に太陽光発電のようなパネルを装着して行う。実験によると、5メートル四方くらいのパネルでいいという。

 必要な水素量について、天尾さんによると、一般的な計算で燃料電池を使用した場合、5人家族の一軒家で1時間に600~千リットル必要とされる。ギ酸に換算すると1.2~2.1キログラム相当で、1時間にこれくらいのギ酸をつくることを目標にしている。ギ酸をつくるための二酸化炭素は1.2~2.1キログラム必要になる計算という。

「これを目標とするが、段階的に達成していくことを想定している」(同)

 二酸化炭素は温室効果ガスの一つで、その削減が世界的な課題。人工光合成では二酸化炭素がなくなるが、単に封じ込める試みもある。北海道苫小牧市の製油所では、二酸化炭素を分離・回収し、海底下の貯留層へ圧入・貯留し、封じ込める実証実験がされている。封じ込めは、天尾さんによると「埋めるだけ」という。

 また、樹木などの植物を育成すれば二酸化炭素を吸収するが、「完全に二酸化炭素がなくなるわけでなく、育つ速度が遅い」(天尾さん)。

 二酸化炭素がギ酸に変化してしまう人工光合成とは違うという。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2022年2月11日号