センサーや無線などのチップを背負った昆虫(佐藤さん提供)
センサーや無線などのチップを背負った昆虫(佐藤さん提供)

 地震などの大規模な災害が発生すると、広範囲のがれきから行方不明者を見つけ出すのは時間との勝負になる。生存者の発見が早いほど、救出できる可能性が高まる。

 広範囲のがれきの中で、小さなすき間の奥深くまで生存者を探索するのは容易でない。たとえ小さなロボットをつくることはできても、バッテリー消費電力の問題から、動かすだけで数分程度にとどまる。探索する機能まで搭載させると駆動時間はさらに短くなる。

 こうした問題を解決してくれるかもしれないのが、レステック(東京都千代田区)が開発中の昆虫サイボーグだ。小型の装備を背負った昆虫が自由に動く。カメラやセンサーで生存者を発見すると、無線で知らせてくれる。これまで室内実験をしてきたが、2022年からは野外での実証実験を始める。レステックは昆虫サイボーグ技術の実用化に向けて、日本でマーケティング活動を開始する。

「行方不明者をゼロにしたい」というのはシンガポール南洋理工大学准教授で、レステックの佐藤裕崇代表。災害時のがれきの中の、どこに何人の生存者がいるのか、そのマッピングができれば、救助隊が救い出せる可能性が高いと聞いているという。

 たとえば、行方不明者の探索が5平方キロメートルに及ぶ範囲であれば、数百匹程度の昆虫サイボーグを投入すれば、1日ぐらいで探索できるとみている。

「基本的に昆虫は自由に動いてもらいます。探索する範囲を超えてしまう場合などに、元の範囲に戻ってもらうという制御をします。昆虫が生存者と出会うとカメラやセンサーで自動的に見つけることができます。生存者を見つけたときに無線で知らせる仕組みです」(佐藤さん)

 昆虫サイボーグはこれまで、無線、カメラ、センサーごとに別々のチップを使い、ボードに載せて背負わせてきた。今後の課題は、これらのチップを一つにまとめコンパクトにすること。背負う部分が小さくなると、狭いすき間も通りやすくなる。それには、大がかりな電子工学的デザインが必要で、費用がかかる。

 昆虫サイボーグには、よく動き回るゴキブリを考えているという。

 昆虫サイボーグは「特定の領域を網羅的に探索し、その作業が終わったら元の場所に帰還することができるようにしています」という佐藤さん。5年以内に実用化したいと話している。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2022年2月11日号