國村隼さん
國村隼さん

 時代劇にヤクザ映画にヒューマンドラマ、韓国のサスペンス映画。あらゆるジャンルになじむ。最新作では中国人の監督やキャストとタッグを組んだ、国際派俳優の意外な癖とは──?

【映画「再会の奈良」の場面写真はこちら】

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 俳優・國村隼さんは昔から、設計図を見るのが好きだという。10代の頃、自動車のエンジニアを目指して府立工業高等専門学校に進んだが、演劇と出会ったことで、台本が持つ設計図の魅力に取り憑かれた。

「子供の頃から分解癖があるんです(笑)。芝居っていうのは、常に台本があるでしょう? それを読んだとき、いったん自分の頭の中で解体してから、組み立てる作業をします。そのときに、全体として『面白くなりそうだ』とかそういうことよりも、『監督が何を伝えたいか』というテーマにすごく興味があって。エンジニアっぽい言い方をすれば、設計図から、監督がどんな乗り物を作りたいのかをイメージできるかどうかが重要で、その乗り物の機能やスピードや実用性にはそんなに興味がない(笑)」

 古くはリドリー・スコット監督の「ブラック・レイン」(1989年)、最近では、写真家のユージン・スミスが水俣病の実態を記録した写真集を下敷きに生まれた映画「MINAMATA─ミナマタ─」にも出演。なるほど、海外からもたらされる設計図は、さぞや國村さんのエンジニア魂に火をつけたことだろう。

 現在出演中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の大庭景親役では、さすがの風格を醸し出しているが、映画の最新作「再会の奈良」ではそれとは対照的な、ごくありふれた中年男性を演じている。パリで映画を学んだ中国出身のポンフェイ監督が監督と脚本を手掛け、歴史に翻弄された中国残留孤児とその家族の運命、互いを思いやる気持ちを描いた本作。國村さんは、日本に帰国したまま行方を消した残留孤児の養女・麗華を捜しに日本にやってきた陳ばあちゃん、孫娘がわりのシャオザーが奈良で偶然出会う、元警察官の一雄役だ。

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