※イラストはイメージです (GettyImages)
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 幼少期から症状が表れてくるイメージが強い発達障害だが、シニアの発達障害もある。認知症の初期症状と共通する部分が多く、臨床の場でも混乱の声が聞かれる。それぞれ何がどう違うのか。

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「お父さんと一緒に過ごすのがしんどい。最近怒りっぽさが増したみたいで、ちょっと一緒に病院に行ってくれない?」

 岐阜県在住のA子さん(50)。母からのこんな電話を受け、重い腰を上げた。「また、父か……」と長いため息が出る。

 A子さんは、物心ついたころから父が苦手だった。家族に対してまるで関心がないように見えた。父との思い出はほとんどない。父は仕事から家に帰ってきても、自室にこもって趣味の読書に没頭してばかり。家族のだんらんの時間も、父だけがいつも別空間にいるようだった。

 こだわりが強く、いつも決まった時間に入浴し、就寝しないと気が済まない。スケジュールどおりに物事が進まないと怒りだす。パートに出て働く母の帰宅が遅くなり、決まった時間にご飯ができていないと、癇癪(かんしゃく)を起こすこともたびたびあった。家事は一切やらず、近所の人に挨拶されても知らんぷり。わが父ながら、なんて自分勝手な人だろうと思ってきた。

「それはちょっと違うんじゃない?」と思って父に対して意見しても、決して自説を曲げない。冗談を真に受け、会話が通じないこともある。A子さんが学校であったことや、母が職場であったことを話しても、表情が乏しく反応が薄い。その半面、自分の興味のあることについては、聞いている側が辟易(へきえき)するぐらい延々としゃべり続ける。A子さんの結婚式のときにも、久しぶりに会った親戚に、大好きな歴史小説の戦争シーンの話を滔々(とうとう)と語り始め、娘の晴れの場に不釣り合いな会話を始終続けることで周囲を困惑させていた。一事が万事、こうなのだ。

 周囲の人とコミュニケーションがうまく取れず、自己中心的な頑固者──。A子さんの中での父に対する感情は、成長とともに嫌悪感が強まり、なるべく関わりたくないと思うようになった。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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