手塚マキさん
手塚マキさん

 大学共通テストも終わり、各大学の入試が始まる。合格を目標に勉強している受験生も多いかもしれないが、受験勉強に向き合わなくても、自身の経験と知識を学ぶことの両立が大事だと人生の先輩は話す。

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「これが明日、俺が社会の一員として活躍するために必要な知識なのか」。東京・歌舞伎町でホストクラブや飲食店、美容室など二十数軒を構える「Smappa!Group」会長の手塚マキさん(44)は、受験勉強に強い違和感を持っていた。

「元々は医学部志望だった。でも、医者になるために5科目を勉強する意味がわからなかったんです」

 埼玉県比企郡で育った。農家や自動車工場など、家業を継ぐ明確な目標を持つ同級生が多いなか、自身はサラリーマン家庭で、将来像がつかめなかった。何も興味がなく、「人間を学ぶには医学かな」と、医者を志した。医学を勉強するなら大学を出る必要がある、大学に行くには普通科の高校に行かねばと受験に挑み、県内屈指の進学校、県立川越高校へ。

「高校受験の勉強は楽しかった。でも、それは成績でランク付けされることにゲーム性を感じたからで、勉強自体がおもしろいわけではなかった」

 受験勉強は「基本的にクイズだと思っている」と手塚さんは続ける。

「『いい国つくろう鎌倉幕府』みたいに、裏にある何かを学ぶというより、表層的なものをなぞっていくような覚え方をさせられる。これは違うんじゃないかってずっと思っていました」

 高校では勉強せず、医学部への夢も方針転換した。それでも大学に行かない選択肢は考えられず、1浪して中央大理工学部2部に進んだ。

「大学受験の勉強とは向き合えなかった。受験レースを駆け上がるゲームは高校受験で体験していたので、目新しいおもしろさがなく、リアルな社会に興味が移っていました」

 就職氷河期世代で、いい大学に入り、いい企業に就職すれば一生安泰だというのは幻想だと肌で感じていた。「不安定な時代で社会を知るには裏の世界から見るほうがよりわかるのではないか」と、入学してひと月後にはホストを始める。大学は半年で中退した。

「大学の先輩よりホストの先輩のほうが断然カッコよく大人だった」。ホストとして自身の売り上げを論理的につくっていく経験に「経営学のメソッドが詰まっていたと、のちに経営の勉強をして思いました」と話す。

「大事なのは知識と行動を乖離させないこと。私は行動した後に答え合わせして知識をつけることを推奨します。若いときのほうが感受性豊かな経験ができるから」

(本誌・秦正理)

週刊朝日  2022年2月4日号

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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