左から、中曽根康弘氏、大平正芳氏
左から、中曽根康弘氏、大平正芳氏

 首相にズバッと切り込んできたジャーナリスト、田原総一朗氏。週刊朝日100周年の記念企画として田中角栄氏以降、秘話を交えて振り返り、“独断”と“偏見”で歴代首相を採点してもらう「宰相の『通信簿』」。今回は大平正芳、中曽根康弘の両氏。ハト派とタカ派の意外な接点、そして現首相の「岸田ビジョン」にも影響を与えた。(一部敬称略)

【田原氏による中曽根康弘氏、大平正芳氏の採点表はこちら】

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田原総一朗氏
田原総一朗氏

 世間から「あーうー宰相」なんて呼ばれていたけど、大平正芳は難しいことをきちんと説明しようとしたから、「あーうー」とあんな言い方になったんだと思う。大平内閣になって初めて、消費税の導入っていう話が出てくるのね。

 消費税がなかった当時は、所得税や法人税の累進課税がすごく高かった。大平はこの累進課税をなくそうと、一般消費税構想を唱えた。

 ところが、消費税導入に反対する声が強くて、断念せざるを得なかった。

 第1次内閣の時、大平に会うため官邸に行ったのね。忙しくてなかなか出てこなくて、長く待ったことを覚えている。

 大平は、日本をどうするかを深く考えていた。10年後、20年後を考えたのが大平からなの。田中角栄まではね、やっぱり“復興”がキーワードだったのよ。とにかくよくしようと。大平から日本の長期的な展望を、持続性をね、考えるようになった。

 大平で最も興味深いのは首相在任中、学者や産業人をはじめ、行政官らを加えた政策研究会をつくったこと。各界の名だたる専門家ら、総勢176人のメンバーだった。多くのブレーンによる本格的な研究会は、総理大臣としては初めてのことだと思う。

 それぞれ研究グループをつくり、このうち一番有名なのは「田園都市構想」ね。今で言うところの「地方創生」ですよ。東京一極集中を直そうと。さらに、「対外経済政策」「多元化社会の生活関心」「環太平洋連帯」「総合安全保障」など多岐にわたるテーマを研究した。「多元化社会」なんて、まさに今風では「多様性」ってやつだよね。

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