那須御用邸の敷地を散策する天皇ご一家(2019年、代表撮影)
那須御用邸の敷地を散策する天皇ご一家(2019年、代表撮影)

「天皇制の未来」が危ぶまれている。安定的な皇位継承のあり方を議論する政府の有識者会議も、具体的な皇位継承策を明示しなかった。私たちは天皇制をどう位置づけ、皇室とどう向き合えばよいのか。憲法学者の木村草太さんが読み解いた。

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 天皇制は存亡の危機にある。憲法2条によれば、天皇の地位は、皇室典範に従い「世襲」される。現在、皇位継承資格を持つ皇族は極わずかだ。彼らが即位を拒否すれば、天皇は不在となる。我々が今後取りうる選択肢は、(1)女性・女系天皇の道を開く、(2)皇室の外にある人に皇位継承資格を与える、(3)天皇不在を前提とした制度を作る、(4)現行制度に賭ける、の四つしかない。

 このうち、(4)現行制度に賭けるのは、あまりに無謀だ。天皇は、法律の公布、国会の召集、衆議院の解散や首相・最高裁長官の任命など、統治の根幹にかかわる国事行為を担う(憲法6~7条)。万が一、天皇不在となれば、日本の統治機構は麻痺しかねない。賭けに負けた場合のリスクが大きすぎる。

 それにもかかわらず、国民も、リーダーシップをとるべき政治家たちも一丸となって、(4)を選び続けている。これは不可解な態度だ。

 例えば、もしも、「現在の憲法・法律では、首相就任資格者があと数人しかいません」と言われれば、誰でも憲法なり法律なりを改正しなくてはならないと思うだろう。そして、それを進める政治家を支持するだろう。しかしながら、その首相を任命する天皇となると、その不在の可能性を特に心配しないのだ。

 こうした不可解な態度の原因は、国民自身が、天皇制の目的を深く考えていないことにあるのではないか。私はそう考える。誰もが「天皇制」という制度があることは知っている。しかし、「天皇制は何のためにあるのですか?」と聞かれたら、ほとんどの人は答えに窮するだろう。制度の存在目的が分からなければ、それを維持する努力をすべきかどうかも分かるはずがない。

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