米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)/1978年、岐阜県生まれ。2001年に『氷菓』で角川学園小説大賞奨励賞を受賞してデビュー。11年に『折れた竜骨』で日本推理作家協会賞、14年に『満願』で山本周五郎賞。同作と15年『王とサーカス』は三つの年間ミステリーランキング1位。『黒牢城』は四つの年間ミステリーランキング1位、山田風太郎賞受賞。(撮影/干川修)写真提供:株式会社KADOKAWA
米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)/1978年、岐阜県生まれ。2001年に『氷菓』で角川学園小説大賞奨励賞を受賞してデビュー。11年に『折れた竜骨』で日本推理作家協会賞、14年に『満願』で山本周五郎賞。同作と15年『王とサーカス』は三つの年間ミステリーランキング1位。『黒牢城』は四つの年間ミステリーランキング1位、山田風太郎賞受賞。(撮影/干川修)写真提供:株式会社KADOKAWA

 歴史・時代小説好きが選ぶ『週刊朝日』恒例の「歴史・時代小説ベスト3」。2021年のランキング1位は、米澤穂信さんの『黒牢城』に決まりました。ミステリー作家である米澤さんが歴史小説に挑んだ理由や、戦国時代への興味を明かしてくれました。

【2021年「歴史・時代小説ベスト3」はこちら】

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──1位に輝きました。

 大変光栄ですし、初めて書いたタイプの小説だったので驚いています。書きたいという自分の気持ちのままに書いていましたが、ミステリーですし、16世紀の日本を舞台にした小説です。その両方を読んでくれる読者が果たしているのだろうかと、ずっと思っていました。

──ミステリー作家の米澤さんがなぜ歴史小説を書こうと思ったのですか。

 発想の根本はイギリスの作家エリス・ピーターズの推理小説「修道士カドフェル」シリーズです。優れたミステリーであると同時に、宗教、法律、慣習など、当時のイングランドの社会風俗を生かした大好きなシリーズです。ミステリーの中で歴史を扱う手つきを学びました。

──今回が初めての歴史小説です。

 書く上で指針になった作家が3人います。1人目は先ほどのピーターズ。2人目は山田風太郎さんです。歴史的事実は曲げず、そこに至る経緯や資料にない部分は想像の翼をはばたかせて、忍者が暗躍するような小説を仕立てる。その手法が好きでしたし、啓発されました。社会風俗を生かした書き方をされる東郷隆先生の文章にも大いに学びました。

──舞台を戦国時代にしたのはなぜですか。

 もともと戦国時代に興味があり、多少勉強していました。19世紀以降の植民地主義とは違い、戦国時代の領主には自分の領民を経済的に繁栄させるという概念がなかったと思っています。では何を求めて日本各地で戦争をしていたのか、理由はどこにあるのかという好奇心から資料や本を読むようになりました。

──社会の構造に興味があったと。

 世の中のつくり、現在の自分たちとは違うものの見方、考え方、価値観にずっと興味を持っています。

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