帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「新年に思う」。

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【コロナ】ポイント
(1)30年以上、常宿だったホテルがコロナで店じまい
(2)友人になったホテルマンの次の就職先が決まらない
(3)新年こそコロナに負けない日常を取り戻して欲しい

 2021年に、とてもガッカリしたことがありました。私が30年以上にわたって常宿にしてきた「ホテルグランドパレス」が6月30日をもって、店じまいしてしまったのです。外国人客の多いホテルでしたから、新型コロナのせいで宿泊客が減り、やっていけなくなったのでしょう。

 このホテルは私にとって、なくてはならない存在でした。全国各地に講演に行くときに、自宅のある川越からだと不便なので、このホテルに前泊して翌朝、東京駅や羽田空港から出発していたのです。コロナ前は年間100回ぐらい講演がありましたから、相当な日数、ここに泊まりました。

 早朝の6時半にホテルのレストランが開きます。そこに一番乗りして、朝の生ビールを飲むのが、楽しみでした。その瞬間から、その日一日に対する活力(ダイナミズム)が湧き上がってきます。午前中に時間の余裕があると、部屋で原稿書きもしました。不思議と筆が進みます。このホテルは私の活力を引き出す格好の場だったのです。

 30年の間には、当然のことながら、ホテルマンの友人がたくさんできました。杯を酌み交わすわけではありませんが、ホテル内ですれ違うだけで、親愛の情がわきます。ですから、ホテルが終わるという通知を受けてから、彼らの顔を見るのがつらかったですね。

 しばらくそのことには触れないようにしていたのですが、6月30日が近づいてきたので、顔を合わせると「次の就職先は決まりましたか」と聞くことにしました。するとみんなから異口同音に「まだです。しばらくは浪人です」との答えが返ってくるのです。でも、さすがプロのホテルマンです。誰一人として打ちひしがれた表情ではありません。いつものように明るく振る舞っています。それだけに、痛々しさが増してくるのです。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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