2021年3月のフィギュアスケート世界選手権で、SPの演技をする紀平梨花
2021年3月のフィギュアスケート世界選手権で、SPの演技をする紀平梨花

 12月22日、フィギュアスケート全日本選手権開会式当日。紀平梨花の欠場が、日本スケート連盟から発表された。7月に発覚した右足首の疲労骨折からの回復が遅れ、安静が必要と診断されたためだ。2月に開幕する北京五輪への出場は、これで事実上絶望的になった。

【写真】若手が席巻するロシアで実力を見せつけた15歳の女子フィギュア選手はこちら

 現在の女子フィギュアは、ロシアの若手が世界を席巻している。高難度ジャンプを武器に持つ紀平は、唯一の対抗馬と目されていただけに、周辺の落胆は大きい。

 が、関係者の中には、「これは英断。じっくり身体を直して、復活を期すべき」との声もある。

 そもそも紀平は、4回転ジャンプに関しては昨年の全日本選手権で一度4回転サルコウを成功させたのみ。国際試合での実施実績は無く、4回転ジャンプを何種類も跳ぶロシアの女子に対して、優位性があるとは言えない。五輪メダルへの期待という重圧は、あまりにも大きすぎた。

 日本とロシアでは、選手へのバックアップ体制にも違いがある。ロシアでは自国開催のソチ五輪(2014年)以来、フィギュアスケート競技の強化は最重要課題だ。それだけに、結果を出したアスリートに対する国家的なバックアップも大きい。

 ソチ五輪金のアデリナ・ソトニコワは、難病の家族のために戦った。同大会団体戦メダリストのユリア・リプニツカヤも、早々に引退して現在は一児の母。平昌五輪(2018年)で金・銀を獲ったアリーナ・ザキトワやエフゲニア・メドベージェワも、アイスショーに引っ張りだこだ。結果を出すために成長期の身体に無理を強いたとしても、その後の人生には一定の保証が見込めるのである。当然ながら、日本ではそうは行かない。競技引退後の人生を考えると、無理は禁物という訳だ。

 そのロシアの若手選手たちは、「技術力を見せつけるための演技」を追求することで高得点を稼ぎ出してきた。元々ソチ五輪をターゲットにした強化で選手たちのレベルを大きく底上げしたロシアだからこそできることで、他国が今から同じ戦略を取るのは困難。

次のページ
対ロシアの戦略は「演技の完成度を見せるための技術力」