1975年に来日した時の、エリザベス女王とフィリップ殿下
1975年に来日した時の、エリザベス女王とフィリップ殿下

 今年も各界から多くの訃報が届いた。イギリスのエリザベス女王の夫、エディンバラ公フィリップ殿下は4月に、99歳で亡くなった。ジャーナリストの多賀幹子さんが、追悼のメッセージを寄せた。

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 フィリップ殿下は慣れ親しんだウィンザー城で妻にみとられ、大往生を遂げました。99歳というご年齢を思えば、死は遠いものではなかったはず。そう理解はしていても、エリザベス女王に楽しげに話しかける姿は永遠に続く、と信じていました。

 1953年、女王が無事にウェストミンスター寺院での戴冠式を終えたとき、女王にふと目をとめたあなたは「おや、その新しい帽子はどこで見つけてきたんだい」と声をかけたといいます。そのときの女王のお顔が目に浮かびます。まさに破顔一笑。緊張が一気にとけていったことでしょう。君主という厳粛な立場から解放された瞬間でした。結婚生活は70年以上に及びましたが、女王とあなたはコインの表と裏。互いになくてはならない存在だったのです。

 あなたの歯に衣着せぬ発言には、批判もありました。宇宙飛行士を目指す少年には、「無理だね。そんなに太ってちゃあ」。オーストラリアでコアラを抱くように勧められると、「遠慮しとくよ。悪い病気がうつると困るからね」。ジョークというにはかなり問題のある物言いなのに、なぜかそれ以上責められなかった。ぶしつけではあるけれど、物事の本質を突いている部分もあったからではないでしょうか。

 格式高い葬儀は、あなたの用意周到さに舌を巻きました。流されたジュピターなどの選曲はご自身で行い、棺をのせる車の色は緑と決めました。棺がしっかり固定されるように、金具の締め具合まで何度も調節したといいます。見事な終活といえるかもしれません。

 女王は、あなたを失ったあと体調不良が続いていました。初めて公の場で杖をつかれ、COP26の会合は対面からビデオメッセージに切り替わりました。これまで欠かさず臨席した戦没者追悼式さえ欠席しました。

 でも、徐々に元気を取り戻しておられます。来年は即位70周年を祝う式典が6月に催されます。使命を全うする覚悟が伝わってきます。どうぞ、最愛の人を天国から見守ってあげてください。

週刊朝日  2021年12月24日号

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多賀幹子

多賀幹子

お茶の水女子大学文教育学部卒業。東京都生まれ。企業広報誌の編集長を経てジャーナリストに。女性、教育、王室などをテーマに取材。執筆活動のほか、テレビ出演、講演活動などを行う。著書に『英国女王が伝授する70歳からの品格』『親たちの暴走』など

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