下重暁子・作家
下重暁子・作家

 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、新型コロナウイルスについて。

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 オミクロンという変異株が出現した。なんとなくコロナの名前としてふさわしくない。と思うのは、私だけだろうか。デルタとか、アルファというとそれらしく怖ろしげだが、オミクロンというと、親しみやすいような気がする一方、ウイルスらしくないだけに今までのものより、ずっと悪質なのではないかという怖れもある。

 ギリシャ語で名付けると聞いたが、この後どんな名が出てくるのか。新しく出現した感じがするが、実はずっと前から存在していたに違いない。

 今までの変異株にしても、アルファ株は最初にWHOに報告したのがイギリス、デルタ株がインド、オミクロン株は南アフリカからの報告という。

 しかし、日本で最初に報告された時には、アルファ株はすでに日本に流入していた可能性があり、デルタ株にしても、あれよあれよという間に広まっていた。と考えると、岸田首相がいち早く各国からの入国を停止するという水際対策をとった時には、すでに日本のどこかにオミクロン株が存在していたかもしれぬ。

 これまで対策の打ち方の遅れに騙されてきた感のある国民は疑い深くなっていて、発見された時にはある程度の広がりがすでにあるのではと思ってしまう。オミクロン株かどうかわかるには、まずコロナの陽性が見つかって、その後の検査で数日かかるという。ということは、専門家の見方では「水際対策に限界」があり、市中感染は避けられないという。

 変異株はどんどん強い株に変わっていくから、一つ抑え込んだとしても、すでに次が芽生えている。結局、ウイルスの変化の方が早く、全世界どこで変異しているかわからないから、変異株が出現してから対策を打つわけで、いつまでたっても追いかけっこ。

 コロナの逃げ足の方が早いから、人間の打つ対策は常にその後追いになる。なんとかその変異の出現を予測して先手先手と打つ方法がないものだろうか。

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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