熊谷真実さん (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
熊谷真実さん (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)

 42年前の朝ドラ「マー姉ちゃん」が再放送中です。サザエさんの作者・長谷川町子の自伝が原作で、町子の姉で姉妹社(※)社長の毬子(まりこ)さんがモデルの主人公を演じたのが、当時18歳の谷真実さん。再放送を記念して思い出を語っていただきました。

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──「マー姉ちゃん」が42年ぶりの再放送です。

 本当にうれしいです。よくぞ、といいますか、還暦過ぎてまさか「マー姉ちゃん」が再放送されるなんて。私、収録していたとき18歳から19歳だったんです。ほぼデビュー作で、ど素人です(笑)。当時の朝ドラは、世間にまったく知られていない女優さんがじっくりと演技指導、所作指導を受けて、満を持して新人女優としてデビューするのがワンセットだったのに、私は何もなしでいきなり主演。

──それは大変でしたね。熊谷さんは「サザエさん」の作者・長谷川町子の姉の毬子さんがモデルの「マー姉ちゃん」ことマリ子を演じました。演じやすかったですか。

 演じやすいもなにも、私のままでした。プロデューサーの意向で「マリ子は、熊谷さんの個性を生かしたい」って、「そのままでやってもらいます」と。演技指導がほとんどなかったんです。共演していた三崎千恵子さんに所作指導だけしていただいて。

──当時、まだご存命だった毬子さんとはお話しされましたか。

 一度だけスタジオに遊びにお見えになったことがあります。あまり親しくお話はできませんでしたが、とてもお美しい方でした。ほんとうに。

 しゃしゃりでることはしたくないということもあったと思うんですけど、見学されている際も隅で静かにしていらして。私の演じたマー姉ちゃんを気に入ってくださったかどうか、聞けなかったことが心残りです。

──長谷川町子がモデルの妹・マチ子役は、田中裕子さんでした。

 初めて裕子さんに会ったのは「マー姉ちゃん」のオーディション会場なんです。そこには何十人という人が来ていたのですが、私、唯一、裕子さんのことだけは覚えていて。裕子さんは静かにポツンと座っていただけなんだけど、そこだけがぴかっと光っていたというかスポットが当たったみたいで、今でも忘れられません。静かなんだけど、目をひく、他の人とはまったく違う空気感……とにかく別格でした。

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