ライター・永江朗氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』(ウスビ・サコ、世界思想社 1650円・税込み)を取り上げる。

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 オリンピックを東京に招致するとき、宣伝文句のひとつが「おもてなし」だった(事故を起こした原発はアンダーコントロール、というのもあった)。自分たちはもてなし上手だと多くの日本人が信じている。でも、それは自分勝手な思い込みかもしれない。

『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』は、京都精華大学学長による愉快なエッセイ。サコ学長はアフリカのマリ共和国出身で、日本在住30年。2002年に日本国籍を取得したマリ系日本人である。京都大学大学院に留学してから今日まで、日常のさまざまな場面で文化の違いに遭遇してきた。そのつど著者は「なんでやねん」とツッコミを入れる。

 読んでいて象徴的だと思ったのが「おもてなし」について。著者は30年前、とある老夫婦の家に2泊3日でホームステイした。1日目の昼は寿司屋に、夜は大量の鍋料理、2日目の朝は和洋2種の朝食と、たいへんなおもてなし。では、それでサコ青年は嬉しかったかというと微妙。寿司屋で出てくるタコ・イカ・イクラは苦手なもので(でも頑張ってのみ込んだ)、朝食もダブルで出されるなんて。

 老夫婦は高級旅館並みに接待するのが「おもてなし」だと思っていたが、サコ青年が期待したのは普通の日本の生活を体験することであり、老夫婦との会話だった。だってホームステイだもの。老夫婦のもてなしは、相手を思ってではなく、自己満足のため(とまで著者はいわないけれど。でも、そうだ)。

 郷に入れば郷に従え、という人もいる。でも、そのためには郷のルールを外から来た人にわかりやすく論理的に説明すべきだと思う。

週刊朝日  2021年12月3日号